100幌尻岳


 最難関攻略でついに百名山踏破!!
ぽろしりだけ


(2053m)
                                                                             北海道沙流郡平取町・新冠郡新冠町



           山頂付近に展開する3つのカール状台地、貴重な動物と多彩な高山植
           物が魅力の幌尻岳。日高山脈の中では唯一2000メートルを越える
           最高峰である。大きな山容はあくまで堂々として見えるが、山上の楽
           園とも称される七つ沼カールの眺めは特筆ものの美しさだ。日高の奥
           深くに坐し、容易に登頂することはできないが、それだけ自然にあふ
           れており、日高の盟主として相応しい名山である。



  日本百名山も最後の一座になり、いよいよ幌尻岳に登るときがきた。
  最後の最後で厄介な山になってしまったが、この日のためにそれなりに準備もしてきたので
  何とかなるだろうと、いつものお気軽気分。あとは天気だけが心配だ。
  百名山のフィナーレを飾るべく、いざ幌尻岳へ。



 2012年7月28〜29日    曇/晴

  ・コース
   幌尻林道第1ゲート⇔取水施設⇔第1渡渉地点⇔幌尻山荘(泊)⇔
   命の泉⇔幌尻岳

  ・1日目 3時間25分 、2日目 11時間15分
       (幌尻山荘まで)

  ・標高差 1560m

  ・歩程 30.0km



          百名山で最難関?
          幌尻岳は日本百名山の中で最も登頂が困難な山と言われている。その理由として、ま
          ず登山口までのアプローチがある。2011年から林道終点の第1ゲートまでシャト
          ルバスでしか行けなくなってしまった。そのため、その後の行程もバスの時間に合わ
          せなければならない。ゲートからはヒグマに怯えながらの長い林道歩きを強いられる。
          林道歩きが終わると額平川の渡渉が待っている。これが最大のポイントだ。雨が降る
          とすぐに増水し、その水量は腰より上になることも珍しくない。渡渉困難と判断され
          た場合はシャトルバスが出ない。そして、幌尻山荘の予約の困難さがある。完全予約
          制の山荘は4月の時点ですぐに埋まってしまう。幕営は禁止されているので、山荘が
          予約できない場合は日帰りするしかないが、超健脚でない限りそれは難しい。道外に
          住む人からすれば、北海道の山というだけでたやすくは行けないため、百名山では最
          後の山になる人が多いというのも納得がいく。一度で登頂できればラッキーだ。
          
          事前準備
          幌尻山荘の予約、シャトルバスの予約、飛行機の予約、レンタカーの予約を済ませる。
          山荘の予約は3ケ月前にとることができた。電話を数十回かけまくり、ようやく繋が
          った。渡渉時の装備はどうするか。沢靴など専用の靴はいらないと判断したので、水
          捌けの良いスニーカーを買った。一番悩んだのが食事だ。飛行機なのでガスは持って
          いけない。ガスは道内で調達できるが、結局コンビニで簡素な食糧を買い込んだ。こ
          れだけ準備しても、天候によって撤退を余儀なくされたらどうしようもない。



新千歳空港に着いた時は体調が悪く、ドン底の気分だった。連日の猛暑に加え、寝不足が続いたのが原因だろうか。こんなこと
で果たして歩けるのかと少々不安になってきた。まずは、レンタカーを借りて平取町のとよぬか山荘へと向かうことにする。コ
ンビニで食糧と水を調達してから、日高自動車道で日高富川インターまで行き、そこからは国道237号線をしばらく走る。あ
とは振内から町道を通って、とよぬか山荘には11時過ぎに着いた。さっそく準備を済ませ、12時のシャトルバスに乗った。
他に登山者は2人だけしかおらず、林道を揺られながら40分ほど行ったところにある第1ゲートで降ろされた。ここは以前ま
で駐車場だったところで、バスの待合所と簡易トイレが設置されている。12時50分、まずは7.5km先にある取水口を目
指し、悪名高い林道歩きからスタートだ。つまらない林道がひたすら続くが、ここではいつヒグマに遭遇してもおかしくない。
熊鈴を鳴らし、周囲に気を配りながら歩いて行く。25分で第2ゲートを通過。まだまだ先は長い。もくもくと歩き続けること
1時間35分でようやく北海道電力の取水施設にでた。これで林道歩きから解放された。空は生憎の曇りだが、東京の蒸し暑さ
と比べると格段に過ごしやすい。ここまで体を動かし、軽く汗もかいたせいか、先ほどまでの体調の悪さは治まったようだ。登
山道は額平川に沿って付かず離れず延びており、そのルートは明瞭である。しかし、沢沿いといえども微妙な起伏があり、大き
く高巻く箇所もあった。また、鎖の打たれた岩場をヘツるポイントでは十分な注意が必要となる。取水施設から30分ほど行っ
たところに渡渉開始地点があった。渡渉の準備は簡単で、靴を履き替え、ズボンを目いっぱいまくり上げるだけである。登山靴
はコンビニ袋に入れてザックにくくり付けた。いよいよ沢歩きの始まりだ。傍らに置いてあった渡渉棒を持って、対岸の目印に
向かって足を踏み出した。水量は思ったとおり少なく、膝までくることはほとんどないが、雪解け水なのか、流れのあるところ
ではかなり冷たい。30秒もすれば体力を奪われるため、出来るだけ流れの弱い箇所を選んで歩くことにした。はじめは恐るお
そるといった感じの渡渉も、繰り返すうちに次第に慣れてきた。渡渉棒は邪魔なので捨ててしまった。涼感に満ちた沢歩きはと
ても気持ちが良い。すっかり楽しみながら歩いていると、ポツポツと雨が落ちてきた。この雨もすぐに上がったが、あせらずに
先を急ぐことにした。渡渉は20回近く繰り返しただろうか、歩きはじめて3時間30分で幌尻山荘に到着した。今日の予定は
ここまでなので、荷物をおろしてのんびりしよう。こんな何もないような山荘でもビールが置いてあったのは嬉しかった。水場
でしばらく冷やせば飲みごろになる。さて、食事も終わり、あとは何もすることがない。少し早いが明日に備えて6時に床に就
いた。

   
   とよぬか山荘から12時のバスに乗る        往復3500円の乗車券を購入       第1ゲートにある休憩小屋と簡易トイレ
                                                           ここから長いながい林道歩きの始まり
  
   第2ゲートを通過。まだまだ林道は続く       1時間35分で取水ダムに到着          ここからいよいよ渡渉開始となる
                                                            靴を履き替え、気合いを入れていざ
  
      四ノ沢にかかる洗心の滝                マイ渡渉スタイル            水量はもっとも少ないときのようだ
                                                          水が冷たく長いこと浸かっていられない
 
                                    渡渉の様子(下山時)

 
                                    渡渉の様子(下山時)

  
    3時間25分で幌尻山荘に到着             山荘前で寛ぐ人たち                ここの水は煮沸不要


周りが動き出す物音で目を覚ましたのが4時前だった。相変わらず熟睡できず、すっきりしない目覚めだ。さあ、今日はいよい
よ幌尻岳に登頂する。そして、下山後すぐに東京へ帰る。長い一日になりそうだ。天気はまずまずで、次第に晴れてくるだろう。
軽い食事を済ませると早速歩き出した。山荘右側からはじまる登山道はいきなりの急登で、一気に高度を稼いでいく。とくに歩
きづらいわけではなく、とにかく急なだけだ。20分もすると汗だく状態ですっかり息も上がってしまった。休憩する間隔も次
第に短くなってくる。1時間50分ほどたったところで命の泉の分岐に着いた。この分岐を下ると水場があるようだが行かなか
った。尾根に出るには山荘から800m登らねばならない。目の前に現れるピークに何度か騙され、これらを幾つか越えると展
望が開け、ようやく尾根に出ることができた。まずは心地良い風にあたりながら休憩しよう。ここからの眺めは最高だ。左手に
広がる北カールは圧巻で、その上部をグルッと巻くようにどっしりとした幌尻岳へときれいな稜線が続いている。疲れが溜まり
足取りは重いが、気分の良い稜線歩きの始まりだ。ただ先ほどから足の小指を何度か攣っているのが気にかかる。ハイマツ帯を
過ぎると辺り一面はお花畑になっていた。花の種類も多く、飽きることがない。とくに、トカチフウロ、ミヤマアズマギク、エ
ゾウサギギクの群落は素晴らしい。花を愛でながらゆっくり登って行くと、次第に山頂が近付いてきた。振り返ると、これまで
歩いてきた稜線が一望できる。そして、新冠コースとの合流を過ぎると、やがて幌尻岳頂上に到着した。それは待ちにまった瞬
間だった。ついに日本百名山達成である。念願の幌尻岳に立つことができ、感動のあまり言葉がない。この余韻に浸りながらも、
周りの景色を楽しむことにした。青空がだいぶ広がり、360度のパノラマを堪能するには十分である。まず、北に目を向ける
と稜線の先に戸蔦別岳と北戸蔦別岳の端正なピラミッドがあり、さらにピパイロ岳、伏美岳へと続いている。ずっと奥のほうに
うっすらと見えるのは十勝の山だろうか。東側には札内岳、十勝幌尻岳などがあり、目を凝らすと帯広の町まで見える。稜線に
囲まれた北カールも美しい眺めだ。さすが、日高山脈のど真ん中だけあって、山の深さを実感することができる。そして、幌尻
岳といえば日高の楽園とも称される七つ沼カールがある。是非、この風景を目にしたかったのだが、時間、体力ともに余裕がな
い。残念だが諦めることにした。幌尻岳に別れを告げて下山を開始しよう。帰りの稜線上では幌尻岳の姿を何度も振り返り見て
いた。樹林帯に入るとあとは一気に下って行き、幌尻山荘には2時間20分かかって到着。予定より早く戻ってこられたので、
食事がてらゆっくり休憩することにした。山荘でまだビールが売っていたので、ささやかながらビールで百名山完登の祝杯をあ
げた。さて、帰りの渡渉は慣れたもので、まったく不安はない。疲れた足には水の冷たさが心地良く、もう少しやっていたかっ
たが、渡渉はあっけなく終わってしまった。しかし、取水施設から第1ゲートまでの道のりはうんざりするほど長く、最後はや
っとの思いでたどり着くことができた。

  
   山荘から続く急登で一気に体力消耗       小さなピークを幾つか越えていくが            命の泉への分岐
                                  なかなか稜線に出られない
 
    森林限界を越えると突き抜けるような眺望が得られる             北カールを挟んで幌尻岳のどっしりとした山体
           頂上へ続く快適な稜線歩きだ
 
    幌尻岳から稜線を進むと三角頭が特徴の戸蔦別岳へ               左奥に夕張岳、右奥に芦別岳を遠望

 
                         しばらく稜線を行くと、たくさんの高山植物が迎えてくれた

  
                        登山道を鮮やかに彩る花々についつい歩がゆるんでしまう

 
           この他にも様々な種類の花が咲く                       やって来た稜線を振り返る

 
        眼下に幌尻湖、その向こうにイドンナップ岳             頂上まではあと少し。力を振り絞って最後の登りを行く

 
        幌尻山荘から4時間10分で幌尻岳に到着                     ついにやりました。悲願達成
  
            正面に戸蔦別岳、さらに稜線を進むと北戸蔦別岳へ。その奥にはピパイロ岳、右端には伏美岳
                     幌尻岳からの眺めといえばこれ。雄大な日高山脈を実感できる
 
         なめらかに削られた美しい北カール                    チロロ岳は雲に隠れてはっきり見えない

 
            十勝幌尻岳と札内岳を遠望                  十勝幌尻岳の先には帯広の町がうっすらと見える



          幌尻山荘
          食事の提供はないので、山荘前の広場で好きなようにする。寝具もないため、寝袋を
          持参したが、薄っぺらな毛布は貸してくれた。山荘と言うより、少し大きめの避難小
          屋といった風情だが、管理人が常駐しており綺麗に保たれている。与えられたスペー
          スはトイレに近く、その扉の開け閉めのたびに悪臭が酷かった。ザックは内部に持ち
          込めないので、床下の収納場所に置かなければならない。山荘前には沢水が引かれ、
          煮沸せずに飲むことができる。定員は50人ほどで、ツアー客で混雑すると思われた
          が、意外にも余裕があった。



          額平川の渡渉
          晴れの日が続いていたため、予想通り水量は少なかった。渡渉ルートは対岸にある目
          印と岩に描かれたマーカーを忠実にたどって行けば問題はない。装備として最も重要
          なのは靴だが、これは普通のスニーカーで十分だと感じた。足を川底の平らなところ
          に置いて歩くようにすれば滑ることはなかった。はじめは心配していた渡渉はとても
          楽しみながら歩くことができた。しかし、今回はたまたま水量が少なかっただけで、
          ひとたび水量が多くなればこの限りではない。また、取水ダムから川沿いのルートで
          岩場をへつるポイントが数箇所ある。鎖がないところでは要注意だ。渡渉よりもむし
          ろこちらのほうが危険だと感じた。



          日本百名山完登
          



        <山行後記>
          最も心配していた額平川の渡渉はまったく問題なく、むしろ楽しく歩けた。幌尻山荘
          からの急な登りは堪えたが、その後は展望と花を堪能しながらの快適な稜線歩きだっ
          た。また、天候にも恵まれ、山頂からは日高の雄大な山並みを眺めることができた。
          はじめは、いろいろな面で不安があったが、終わってみれば十分過ぎるくらい良い山
          行で、最高の2日間となった。百名山完登も果たせ、幌尻岳はこれまでで一番思い出
          深い山となるだろう。





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