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岩塊で覆われた幾つもの峰が連なり、険しい山容を見せる穂高連峰。その 中で日本第三位の高さを誇り、北アルプスの盟主と呼ばれているのが最高 峰の奥穂高岳だ。山頂からの雄大な眺めに魅せられ、多くの登山者がその 頂を目指す。天空の頂、穂高岳はアルピニスト憧憬の山である。
朝の冷たい空気を吸うと、いよいよ登るぞという気持ちになった。沢渡からバスに乗り上高地にやって来ると、すでに多くの登 山者や観光客で賑わっていた。今日は奥穂高岳を登頂し、穂高岳山荘に泊まる予定だ。長丁場だが時間に余裕はある。準備を済 ませ6時25分に歩き出した。河童橋からは朝日を浴びた奥穂高岳がお出ましだ。毎度おなじみの眺めだが、これからあのてっ ぺんへと登って行くのだ。観光客が行き交う梓川沿いの遊歩道を明神岳を見ながら明神、徳沢、横尾まで進んで行った。ここま での2時間は準備運動といったところだ。横尾の山荘で朝飯代わりのカップラーメンを食べ、すぐに歩き出した。このまま進む と槍ヶ岳方面だが、山荘前の横尾大橋を渡ってまずは5.2km先の涸沢へ行こう。登山道らしくなった道は、屏風岩を回り込む ように沢に沿って延びており、45分で本谷橋に着いた。橋のたもとは休憩をする多くの登山者で賑わっていた。自分もその中 に加わり小休止だ。本谷橋から30分ほど歩いたところで、前方に涸沢カールの上部とその上に連なる穂高岳が遂に姿を現し た。遠目に見ても素晴らしい眺めだ。その涸沢が次第に近づいてくると、道は涸沢小屋と涸沢ヒュッテ方向に分岐した。どちら へ行ったら良いか分からなかったので、とりあえず涸沢ヒュッテに行ってみる。すぐにあるパノラマコースへの分岐を過ぎる と、やがて涸沢に到着した。ここまで4時間50分、なかなか良いペースだ。目の前に広がる氷河圏谷の光景は何度も雑誌やネ ットで見た素晴らしさそのものであった。そそり立つ岩山とその下に色付く紅葉のコントラストがなんとも絵になる。見上げる と鞍部に建つ穂高岳山荘が確認できた。さて、次はその穂高岳山荘に向けて出発だ。カール下部の斜面をしばらく進み、右へ横 切ると涸沢小屋からのルートと合流した。ジグザグに付けられた登山道はそれほど急ではないが、なかなか進んでいかない。疲 れが出はじめたようだ。同じようなペースで登っているオッサンと低レベルのデッドヒートを繰り広げる。鋭い頂の涸沢槍がだ んだん近くなってきた。眼下には色とりどりのテントが鮮やかな花を咲かせている。マーブル模様の紅葉もとても綺麗だ。なん とかオッサンを引き離すと、そのあとは岩が混じった急登がしばらく続く。ここからがザイテングラードの取り付きとなる。前 方でなにやらテレビ撮影をしている一行に出くわした。NHKと登山家の田部井淳子さんだった。ロケで穂高を訪れたようだ。こ の辺りから思うように足が動かなくなり、穂高岳山荘を目の前にして立ち休憩を繰り返すことに。息を切らしながらも、やがて 穂高岳山荘に到着したのは、上高地から8時間10分たってからであった。山荘前のテラスからは正面に形の良い常念岳を望む ことが出来、また涸沢カールも上空からは一望のもとだ。とりあえず宿泊の手続きをすることに。さて、かなり疲れているが涸 沢から思いのほか時間が掛かってしまったので、奥穂高岳を目指して最後の仕上げといこう。見上げるような垂直に近い急斜面 には梯子が連続して架けられ、みるみる山荘が小さくなっていく。岩場の急登は一歩足を踏み外せばただでは済まない。上空で は凄い勢いで雲が流れており、風が強く気温も下がってきた。間もなく山頂だというのに完全に体力が尽きてしまったようだ。 寒さと空腹と眠さと疲労のせいで思うように動くことが出来ず、岩陰に隠れてしばらく休むこと数回。山荘からは大幅にコース タイムを越えてしまったが、ようやく奥穂高岳山頂に到着することが出来た。雲が広がってしまい、今ひとつの眺望だが無事に 登頂できたのでほっとした気分だ。 ![]() ![]() ![]() 上高地で出発準備する多くの人たち 河童橋にも人、人、人 朝もやの中に穂高岳を望む ![]() ![]() ![]() 明神岳の姿もなかなか良し 横尾大橋からの前穂高岳 本谷橋で休憩することに ![]() ![]() 樹林を抜けると行く手には涸沢のカールが見えてきた 白出コルに建つ穂高岳山荘もはっきりと分かる 待ちにまった感激の瞬間だ ![]() ![]() こちらは涸沢小屋方向だが、ヒュッテへ行ってみる 木々の色付きを眺めながら歩いて行く ![]() ![]() 4時間50分で涸沢ヒュッテに到着 展望テラスで寛ぐ登山者たち。ここですでに最高の眺めだ ここで売っていたおでんとビールに心が揺れるが我慢する ![]() ![]() ![]() 紅葉と涸沢カール。涸沢槍の鋭鋒がひと際目をひく 穂高岳山荘に向け出発。涸沢小屋とは逆方向へルートをとる ![]() ![]() ザイテグラードの取り付き。ここからしばらく岩場になる 高度を上げていくと、涸沢槍の鋭角が次第に緩くなってくる ![]() ![]() 眼下に広がる涸沢カールと屏風ノ頭 NHKの撮影で来られた田部井淳子さんと内多アナ 先月登った常念岳と同じ高さに近づいてきた ![]() ![]() 涸沢からかなり時間がかかったが、まもなく山荘だ 8時間を過ぎ、穂高岳山荘に到着。この時点で体力ゼロ ![]() ![]() テラスからの大天井岳と常念岳の眺め 山頂へはまず連続する梯子が架かる岩場の急登を行く ![]() ![]() 最後は這うようにして奥穂高岳に到着した 夕暮れ時のロケを見物する 穂高岳山荘では混雑が予想されたが、1人で1枚の布団を確保できたのは幸いだった。涸沢ヒュッテでは3人で1枚だったらし い。二日目は6時25分に出発した。昨日のルートをピストンするのでは面白くないので、再び奥穂高岳に登り、前穂高岳から 岳沢に至るルートで上高地へ戻ることにした。一晩休み体力が回復したせいか、昨日だいぶ時間が掛かった奥穂高岳もあっとい う間に着いた。モルゲンロートに染まる涸沢岳と北穂高岳、昨日は不気味に映っていたジャンダルムも今は穏やかにさえ見え る。そのゴツゴツとした岩山とは対照的に、向こうにはおおらかな笠ケ岳が控えている。槍ケ岳も初めて姿を現した。ここから は吊尾根を通って前穂高岳へと向かう。3000mの岩稜線は高度感抜群で気分が良いが油断大敵だ。なにしろ前日には北穂高 岳で滑落死亡事故があったからだ。前穂高岳直下の紀美子平に着き、そこにザックをデポし空身で急峻な岩場を攀じ登ると前穂 高岳に到着した。予想以上に手強い登りだったが、山頂からはこれまた素晴らしいパノラマが展開した。紀美子平に戻り、あと は重太郎新道で上高地へと下りるだけだが、この重太郎新道の激下りは凄かった。そして、お昼には上高地にたどり着き、穂高 岳を無事に終えることが出来た。 ![]() ![]() 2日目の出発前。笠ケ岳のおおらかな山体 再び奥穂を目指す。反対側には涸沢岳 ![]() ![]() 昨日は見れなかった槍ケ岳。やはりこれがないとね ジャンダルムには数人の登山者が張り付いていた ![]() ![]() 槍ケ岳から北穂、涸沢岳までの縦走路。奥には鷲羽岳と水晶岳 紀美子平から上高地を俯瞰する梓川を挟んで霞沢岳と焼岳 その先には乗鞍岳 ![]() ![]() 前穂高岳に寄り道。紀美子平からの登りは意外ときかった 前穂からしか?見ることができない奥又白池 ![]() ![]() 下ってきた重太郎新道を振り返る 穂高岳山荘 涸沢の雰囲気が良く、そこに泊まってゆっくり周辺を観て回るのも悪くないと思っ たが、白出コルに上がり、穂高岳山荘のテラスから涸沢を眺めたとき、やはりここ まで来なければ駄目だと感じた。眼下の眺めがまるで天から下界を見下ろしている ような別次元のものだった。当日は混みあうものと予想していたが、幸いにも1人 で1枚の布団が使えた。涸沢ヒュッテは相当混んだらしい。夕食にはコンロを使っ た飛騨の郷土料理の朴葉味噌が出たのには驚いた。食後はラウンジの暖炉の周りに 人が集まり、テレビを見たり山談義に花を咲かせたりと、楽しいひと時だった。 <山行後記> 憧れの穂高岳はまずまずの天候で終えることが出来た。やはり穂高岳からでしか見る ことの出来ない雄大な山岳風景には感動的なものがあった。苦しい上りはあったが、 紅葉の涸沢カールや吊尾根の稜線歩きなど、この山の素晴らしさを存分に味わうこと が出来た。次回は西穂や北穂、槍ケ岳への縦走といった北アルプスならではの山歩き を楽しんでみたい。 ![]() |
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