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名山の多い北海道でも、これほど存在感のある山はほかにないだろう。 平野部から一気に立ち上がる山体は、どこから見てものびやかで均整が とれ、ひと目でそれと判るほどだ。別名を蝦夷富士。全国に数ある郷土 富士のなかで、この山ほどその名に相応しい山はないのではなかろうか。
前日はニセコ温泉郷の国民宿舎に投宿した。露天風呂からは満天の星空が広がり、今日の天気の良さを感じさせるものがあっ た。宿から倶知安コースのある半月湖野営場までは30分で到着した。途中、甘露泉でニセコの名水を汲んでいくことも忘れな い。駐車場には思いのほか車が多く、また、観光バスも入ってきたところだった。登山道はトイレの奥に延びているのだが、観 光バスの団体御一行は登山道を探して右往左往の大騒ぎだ。準備を済ませ、早速出発することにした。松の人工林につけられた フラットな道は、すぐに斜度を増し自然林に変わった。先ほどの団体を一気に抜き去り、差を広げるために少しペースを上げ る。風通しの良くない樹林帯が続き、早くも汗が噴き出てきた。35分で2合目を通過。木々の間からは眼下に倶知安の町が見 下ろせ、すでにかなり高度を稼いだ感じがする。しばらく展望の利かない登山道をもくもくと進んで行くと、5合目に達した。 ここまでやって来るのに1時間45分かかった。振り返るとニセコアンヌプリが一望のもとだ。何度かスキーで訪れたことがあ り、そこから見た真っ白な羊蹄山の姿が印象的だった。さて、相変わらずの急登のなかを、息を切らしながらスローペースで、 それでもあまり立ち止まることなく進んで行く。1合毎を目安にして我慢の登りを続けると、徐々に辺りの木々は広葉樹と針葉 樹の混合林へと変わってくる。目の前にはエゾシマリスが現れ、その姿は何とも言えぬ愛くるしさだ。こちらがカメラを構える と、逃げずにポーズをとってくれた。8合目を過ぎると次第に樹林は薄くなり、高山植物が目立ちはじめる。ようやく森林帯を 突き抜けると、道がふた手に分岐する9合目に出た。右に進むと避難小屋方面で、左が頂上だ。先に休んでいた千葉県から来た というご夫妻とともに休憩することにした。お二人は避難小屋で1泊するとのことだ。視界が開けると一気に展望が利くように なった。アンヌプリのずっと先には積丹半島と日本海を見ることができた。話し好きの旦那さんとついつい話し込んでしまい、 奥さんは待ちきれず先に行ってしまった。こちらも先が見えてきたので最後のひと踏ん張りだ。頂上へと続く道はこれまでとは 違い、開放的で気分が良い。ハイマツの中からキバナシャクナゲが顔を出し、その周りにはお花畑が広がっている。この山頂付 近の植物群落は天然記念物に指定されているそうだ。火口壁に出ると、時計回りに対面にある山頂を目指すことにした。北山を 過ぎると右側には大火口がぱっくりと口を広げており、いかにも火山らしい勇壮な眺めが展開する。直径700m、深さ200 mの火口には雪渓があり、その上を吹き上げてくる風は冷たくて気持ちが良い。緩やかな登りは京極コース分岐を過ぎたあたり から岩場へと変化し、やがて数分で山頂に到着した。まずは荷を下ろして休憩だ。山頂からの景色はまさに絶景の一語に尽き る。眼下の平野部に広がるニセコの町、南の方向には洞爺湖を俯瞰することができ、360度の展望は開放感抜群だ。内浦湾を はさんで、その先には駒ケ岳まで確認することができた。帰りはお鉢巡りをし、避難小屋経由で戻ることにした。小屋では9合 目で出会ったご夫妻と再会し、別れを告げると急いで下山を開始した。長くつまらない道をひたすら下り、9時間で後方羊蹄山 を終えることができた。 ![]() ![]() 空港から宿へ向かう途中での後方羊蹄山 今回の宿はニセコ温泉郷の雪秩父。温泉が楽しみ ![]() ![]() 半月湖野営場にある登山口。 倶知安コースは標高差1500m以上。気合いを入れて歩き始める ![]() 1時間30分ほど登ると展望が広がる。アンヌプリとニセコの町が一望できる ![]() ![]() ひょうきんなエゾシマリス君。つぶらな瞳が印象的 9合目で避難小屋への道と分かれる ![]() ![]() アンヌプリを眺めながら休憩する 千葉県から来られたおじさんと話し込んでしまう おじさん夫妻は今日は避難小屋で泊まるそうだ ![]() ![]() 9合目からは変化のある道に変わる ようやく火口壁までやってきた ![]() ![]() 対面にある山頂まで火口壁を半周する この辺りはお花畑になっている ![]() ![]() ハイマツの中にシャクナゲが咲いている 山頂手前から岩場に変わる ![]() ![]() 4時間40分で後方羊蹄山に到着 洞爺湖を俯瞰する。北海道らしい雄大な眺め ![]() ![]() ぱっくりと口を広げた父釜。対面には母釜 帰りはお鉢廻りをして避難小屋まで行くことにする ![]() ![]() 避難小屋まで下って、あとは同じ道で下山する <山行後記> 9合目まではそれほど見どころもなく、とにかく退屈な道程だった。さらに1500m を超える標高差をほぼ直登するので、体力的にもかなりタフな山だ。しかし、決して高 い山ではないが、山頂からの眺望は文句なしの素晴らしさで、登頂の苦労が報われた思 いがした。これまで天候不順が多い北海道の山行で、天候に恵まれたことはなによりだ った。 ![]() |
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