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北アルプス最奥にひっそりと佇む薬師岳の山体は大きい。ボリュームがあ り、南北に長大な尾根と特別天然記念物に指定されている圏谷群を有する。 遠くからでも目を引く白い山肌と滑らかに削られたカールは、この山の優 美さを一層引き立てている。先日、立山から見た薬師岳の姿はとても素晴 らしく印象的だった。
折立登山口には先月の黒部五郎岳を断念したときに一度やってきた。今回は亀谷から林道を走ってきたが、こちらのほうが断然 楽だった。5時30分、空が明るくなってきたので出発することにした。駐車場に車の数は多いが、人の姿はほとんど見えな い。昨日のうちに皆登ってしまったのだろうか。折立ヒュッテの先から始まる太郎坂は名前は可愛いが、初めから急登のきつい 坂だった。雑木のなかは展望がなく、木の根がむき出しになった登山道をひたすらもくもくと登るだけだ。スタート直後からこ の展開はいつもながら堪える。この急坂を1時間20分歩くと視界が開け、ようやく樹林帯から解放された。三角点が置かれて いるスペースには、木のベンチが幾つも設置されており、休憩するにはうってつけの場所だ。急登を休みなく歩いて来たので、 ここで小休止することにした。ベンチに横になりゴロ寝したいところだが、後から数人のグループがやって来たので、入れ替わ りに出発する。一旦、森の中へ入って行くが、すぐに抜けると見晴らしの良い開放的な登山道が草原の中に続いていた。左側に は剱岳が遠望でき、反対側には有峰湖が見下ろせる。石畳や木段が設置された緩やかな道がどこまでも延びており、吹き渡る風 がとても気持ち良い。五光岩ベンチを過ぎる頃に、前方に目指す薬師岳が現れた。だいぶ距離がありそうだ。傾斜も緩く快適だ と思われたこの登山道だが、これだけ距離があるとさすがに疲れてくる。やがて前方に小屋が見えてくる頃になると、休みやす みの登りとなった。折立から3時間40分で太郎平小屋に到着した。小屋の前は広場になっており、そこから薬師岳や黒部五郎 岳、鷲羽岳などを見渡すことが出来る。薬師岳まではまだ3時間かかるので、先を急ぐことにしよう。木道から歩き始め、鞍部 へ下ると薬師峠キャンプ場だ。数張のテントが立てられているが、人の気配はない。テン場を過ぎると再び樹林帯に突入した。 大小の岩が敷かれた涸れ沢を登って行くと薬師平に出た。ここで再び視界が開けた。右手には雲ノ平の先に鷲羽岳が、その先の とんがり帽子はご存じの槍ケ岳だ。そして正面には薬師岳へとのびやかな稜線が続いている。尾根に上がるまでは、ザレ場をし ばらく登らなければならない。だいぶ疲れがたまってきたが、のんびり歩いて行くとやがて薬師岳山荘が目の前に現れた。青い 空、緑のハイマツ、山頂部の白、その中に山荘の赤い屋根が良く映え、とても絵になる風景だ。歩き始めてからすでに6時間近 く経っている。山頂までは残り50分というところだが、腹も減ってきたので、ここで行動食を摂りながら休憩することにし た。南の方角からは雲が広がり、こちらへと徐々にやって来ている。さて、最後のひと踏ん張りに取り掛かるとしよう。白ザレ のスリッピーな斜面はハイマツが少なくなり、さらにジグザグの道をしばらく進むと避難小屋に出た。それは屋根も壁もなく、 石積みの小さなシェルターといったもので、今は使われていないようだ。下から見たときはここが頂上かと思ったが、北へ続く 尾根の先が頂上らしい。すぐ下にはカールが展開し、その上部に沿って15分ほど行くと遂に薬師岳山頂に到着した。先客は1 人のみ。まずは息を整えながら景色を楽しむことにしよう。全方向視界のパノラマは文句なし。北へは岩稜帯の尾根が延び、そ の先には北薬師岳があり、さらに立山へと踏路が続く。黒部川を挟んで赤牛岳が横たわり、向こうには水晶岳と鷲羽岳が並ぶ。 登って来た方を見ると雲が広がってしまい、太郎兵衛平と黒部五郎岳は隠れてしまった。その左には笠ケ岳がうっすらと見え る。いつまでも眺めていたい風景だが、今日は日帰りだ。帰りの道程も長い。後ろ髪を引かれる思いで山頂を後にした。 ![]() ![]() ![]() 折立の駐車場 5時30分に出発する 急登を終えると1871m三角点 ![]() ![]() 左手には剱岳が覗いている 右手には有峰湖 ![]() ![]() 薬師岳が見えてきた。ここからぐるっと迂回するようにして向かう 解放感抜群だが、これが延々続く ![]() ![]() 前方に見えてきたのは太郎平小屋だ 3時間40分で太郎平小屋に到着 ![]() ![]() ここは雲の平、黒部五郎岳への分岐である 薬師岳へはまだ3時間かかるので先を急ぐ ![]() ![]() 眺めの良い、快適な道が続く ここを下ると薬師峠キャンプ場。その先の樹林帯に涸沢がある ![]() ![]() 岩ゴロの涸沢をしばらく登っていく 薬師平に出ると再び展望が広がる ![]() ![]() 尾根に上がり、稜線伝いに進む 薬師岳南東部。ここから山頂はまだ見えていない ![]() ![]() 黒部五郎岳、鷲羽岳、槍ケ岳を眺める 振り返ると太郎平小屋から北ノ俣岳にかけての眺め ![]() ![]() 薬師岳山荘に到着したので休憩しよう 白ザレの道を登る。正面は頂上ではなく、避難小屋跡 この周辺には天然記念物の圏谷群が広がっている ![]() ![]() 避難小屋跡を過ぎると稜線の先に頂上が見えてくる 6時間45分で薬師岳に到着。疲れた ![]() 正面にのっぺりと横たわる赤牛岳と、その先にある水晶岳のゴツゴツとした山容が対照的だ ![]() ![]() 北薬師岳とその東面に展開する金作谷カール、中央カール 雲に隠れてしまいそうな剱岳。その奥には後立山の山並み <山行後記> 決して難易度は高くないが、頂上までの歩程が長く、日帰りするにはかなりタフな山 だった。しかし、歩き出しからの樹林帯以外は終始展望に恵まれたパノラマルートだ。 山頂からは、一部雲が掛かってしまったが、さすが3000m級からの素晴らしい眺 望を堪能することができた。また、薬師岳圏谷群も一見の価値があるだろう。 ![]() |
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