89鷲羽岳


 これ以上ない北ア漫歩で今年の締めくくり
わしばだけ


(2924m)
                                                                                          長野県大町市
                                                                                          富山県富山市



      黒部川源流域の一座である鷲羽岳。きれいな三角錐を成し、名前の通り堂々としてい
      るその姿は裏銀座縦走路の中で最も美しく、他を圧倒するものがある。南東斜面にひ
      っそりと佇む鷲羽池と、池越しに見る槍ケ岳は絶好のロケーションだ。北アルプスの
      最深部にありながら、北アルプス一とも言われる眺望を求めて、多くの登山者がこの
      頂を目指す。



 2009年10月11〜12日    

 ・コース
  新穂高温泉⇔わさび平小屋⇔鏡平山荘⇔双六小屋
  ⇔巻道⇔三俣山荘(泊)⇔鷲羽岳

 ・1日目 10時間00分 、 2日目 9時間50分
       (三俣山荘まで)

 ・標高差 1807m

 ・歩程 36.0km
  



北アルプスからは早くも初雪の便りが届き、あと1、2週間もすれば登山シーズンも終わりを迎えるだろう。冬の訪れを前に、
今シーズン最後の北アルプス山行は鷲羽岳に行ってみることにした。今回は職場の工場長とともに、山小屋に1泊してのピスト
ン行だ。距離が長く、がっつりとした山歩きが出来そうだ。
先月の槍ケ岳のときと同様、新穂高温泉の深山荘の駐車場は満車だった。新穂高バスターミナルから蒲田川を渡り、有料駐車場
の先に車を置けるスペースを見つけた。数時間仮眠し、朝食のあと装備を整え5時30分過ぎに歩きだした。まだ辺りは薄暗い
が、ランプなしでも問題はない。左俣林道をちょうど1時間で笠新道の入口に着いた。給水を済ませ、先へ進むとすぐにわさび
平小屋がある。ブナ林の道をさらに行くと視界が開け、正面には左俣谷の河原が広がっていた。沢に架かる橋の手前が小池新道
の取り付きとなる。登山道は岩が敷き詰められているが、斜度もそこそこで歩きやすい。天気は快晴で最高の登山日和となるこ
とだろう。小池新道を15分も歩くと、右手の稜線上に槍ケ岳が姿を現した。早くも目にした槍ケ岳に気分が昂る。順調に距離
を延ばし、秩父沢の水場までやって来た。ここから1時間ほど登るとシシウドガ原で、脇にはベンチが置かれ、休憩するにはう
ってつけの場所だ。振り返ると新穂高は遥か下で、ロープウェイが小さく見え、隣には穂高岳が並ぶ。ここで向きを変え、トラ
バース気味に進んで行くと次は熊の踊り場に出た。周りは湿地帯のようになっており、薄っすらと全面が凍っている。道は木道
に変わり、笹が茂る斜面を登って行く。針葉樹が目立つようになり、登りが次第に緩くなると、やがて鏡平に到着した。ここま
で天気は快晴だったので、鏡平からの槍穂高の眺めに期待がかかる。池の前にはウッドデッキが設置され、多くの登山者で賑わ
っていた。鏡池越しに見る槍穂高は想像通りの素晴らしさで、それが波ひとつない澄み切った水面に映しだされている。絵にな
る風景に癒される思いだ。先月来たときは天候が悪く、空振りに終わったので、今回はこれが見られただけでもう大満足だ。ま
だまだ先は長い。鏡平山荘で早めの昼食を済ませ、再び歩き出した。しばらく急斜面を登り、右に向きを変えると弓折岳の東面
をトラバースする。40分ほどで弓折乗越にでた。槍穂高に雲が付いてしまったが、そこから続く峰々の眺望は最高で、さっき
まで居た鏡平は箱庭のようだ。さて、登山道はここから稜線にかかり、気分的に楽に歩くことが出来る。ハイマツ帯を緩い登り
下りを繰り返し、途中の花見平を過ぎると、行く手に双六小屋が見えてきた。その後ろに聳え立っているのが、これから目指す
鷲羽岳である。双六小屋に到着したのは歩き始めてから7時間を過ぎていた。ここは裏銀座や西鎌尾根、笠ケ岳へといったルー
トの要所であるが、今はシーズン終盤のためか閑散としている。ここで休憩し、最後のひと踏ん張りに備える。工場長は早くも
腹が減ったとラーメンを注文しに行った。さて、三俣山荘へは双六岳と三俣蓮華岳を越えて行くものと、双六岳手前の中道、巻
道で行く3つのルートがある。最も楽そうな巻道で行くことにした。双六岳への急勾配を終え、頂上への分岐を過ぎるとそこか
ら巻道となる。空は曇ってしまい、さらに気温も下がってきたようで寒くなってきた。左側の斜面は前日に降った雪で白くなっ
ている。周囲の平原は夏になると一面お花畑になるが、今ではナナカマドが赤い実を付けているだけで、冬の訪れを感じさせ
る。だいぶ疲れが溜まっており、スローペースながらなんとか三俣峠まで来た。三俣蓮華岳には行かず、鞍部にある三俣山荘へ
向かう。山荘が見えてくるとほっとするが、岩場の下りから雪を踏むことになる。慎重に歩を進めるとやがて三俣山荘に到着し
た。鷲羽岳を往復する時間はないので明日にしよう。とりあえず今日はゆっくり休みたい。


  
   5時30分過ぎに出発(写真は下山時)          笠新道入口で給水する                 わさび平小屋

  
   左俣谷の河原が広がる小池新道入口     中崎尾根の向こうには早くも槍ケ岳の姿       秩父沢を越え、さらに先へ進む

 
   ここまでの小池新道を振り返る。遠くに新穂高のロープウェイ                 シシウドガ原で小休止

 
     熊の踊り場を通過。水溜りはうっすらと凍っていた                  ここを登りきると鏡平だろうか

              


 
         先月登った飛騨沢の急登ぶりがよく分かる                 鏡平山荘に着いたので、ここで昼食にする

 
         弓折乗越へ向かう途中から鏡平を見下ろす                 弓折岳の東面を緩やかにトラバースする
        あっという間に槍穂高に雲がかかってしまった                こんな道でも思いのほか変化があり面白い
 
       尾根道を行くと花見平だ。解放感があってよろしい                    工場長はまだまだ元気だ

 
        下り始めると、行く手に双六小屋が見えてきた          新穂高から7時間を過ぎ、ようやく双六小屋までやってきた
        背後にはお目当ての鷲羽岳がついにお出まし
 
           双六岳へは向かわず、巻道を進む                だいぶ雪が目立つようになった。工場長はお疲れ気味

 
                  まもなく三俣峠だ                       鷲羽岳が眼前に迫り、三俣山荘も見えてきた
                                                  ここからの急な下りは道が凍結しており慎重に
 
     3時40分、三俣山荘に到着。疲れた。鷲羽岳は明日だ               日が暮れて、眠りに就く北アルプス


山荘は空いており、食事も美味しいので良かったが、とても寒くて堪らなかった。さて、2日目は朝食を済ませると、ザックを
デポして鷲羽岳の往復にかかる。今日も天気は最高だ。朝の冷たい空気を吸い込むと、目の前の鷲羽岳に俄然やる気が湧いてく
る。山荘裏のハイマツを抜けると稜線への取り付きとなり、急なザレ道をジグザグに上り詰める。一気に高度が増し、西方には
薬師岳が現れた。振り返ると三俣山荘と、その向こうには三俣蓮華岳が鎮座している。紺碧な水を湛えた鷲羽池を見下ろし、そ
こからひと登りすると鷲羽岳山頂に到着した。山頂には先客が一人だけで、ゆっくり展望を楽しむことが出来た。快晴のもと、
まさに眺望日和で、360度どこを向いても素晴らしい眺めが広がっている。東の燕岳から大天井岳を経て槍ケ岳へ至る表銀
座、さらに穂高岳へ続く稜線の先には乗鞍岳と御嶽山がある。その右側手前にひと際目立つピラミッドは先日登った笠ケ岳。三
俣蓮華岳を挟んで、カールを抱いた黒部五郎岳。さらに西に振ると薬師岳の大きな山体が横たわる。山頂付近はだいぶ白くなっ
ている。その手前には祖父岳と、そこから踏路は雲ノ平へと延びる。北に目を向けるとすぐそこには水晶岳だ。隣の稜線は裏銀
座縦走路で野口五郎岳から烏帽子岳につながっている。その奥には雪化粧を施した後立山の峰々が遠望できる。これほどの絶景
はそうそう見ることが出来ないだろう。まさに圧巻の大パノラマに言葉はいらない。と言うより言葉にならず、ただひたすらそ
の眺めを楽しむのみだ。工場長も満足そうで、言葉少なに魅入っている。さて、いつまでも留まっていたいがそういう訳にもい
かず、そろそろ下山しなければならない。新穂高への長い道程をひたすら消化し、16時過ぎに登山口に戻って来ると、この山
旅の終わりを迎えた。あとは温泉にでも入ってさっぱりしようか。


 
   今日も朝から元気に登り始める。同宿した2人が先行している               鷲羽池と槍も絵になる眺めだ
                                                  左に恥ずかしそうに頭を出しているのは常念岳
 
    鷲羽岳に到着。ここからの素晴らしい眺めに目を奪われる          槍ケ岳。こちらからだとなんだか平面的に見える




 
    双六岳の向こうに抜戸岳と笠ケ岳。左奥に乗鞍岳と御嶽山            黒部源流と黒部五郎岳。白山も遠望できる

 
       穂高岳から槍ケ岳、そして西鎌尾根へと続く稜線               三俣山荘へ帰還。あとは新穂高まで戻る




           三俣山荘
           三俣山荘に着き、体を休めると急に寒さが襲ってきた。建物の中の温度計を見ると
           4度しかない。寒いはずである。数日前に山荘へ電話をしたら、とても寒いのでそ
           のつもりで来てくれ、とやたら強調していた。なるほどだ。しかも、この週末で山
           荘を閉めるためか、ストーブは食堂とホールに一つしかない。夜は建物の中でも氷
           点下だった。しかし、寒さで眠れないだろうと思っていたが、持参した衣類をすべ
           て着込み、余った布団を重ね掛けしたおかげでよく眠ることができた。疲れていた
           のも良かったのだろう。三俣山荘では宿泊者は8名ほどしかなく、ゆったりと過ご
           すことができた。また、食事は手作りのハンバーグなどとても美味しかった。




        <山行後記>
          頂上からの眺めは今さら言うまでもなく、これまでの北アルプスの中では一番だった。
          距離はあるが、適所に山小屋が配されており、歩きやすい小池新道と好展望の尾根道
          はもう一度訪れてみたいと思った。今回はひとつのピークしか踏めなかったが、これ
          以上ない山岳風景に酔いしれるひと時を過ごせ、晩秋の北アルプスの山歩きは充実感
          と疲労感に満ちた最高のものとなった。





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