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黒部川源流域の一座である鷲羽岳。きれいな三角錐を成し、名前の通り堂々としてい るその姿は裏銀座縦走路の中で最も美しく、他を圧倒するものがある。南東斜面にひ っそりと佇む鷲羽池と、池越しに見る槍ケ岳は絶好のロケーションだ。北アルプスの 最深部にありながら、北アルプス一とも言われる眺望を求めて、多くの登山者がこの 頂を目指す。
北アルプスからは早くも初雪の便りが届き、あと1、2週間もすれば登山シーズンも終わりを迎えるだろう。冬の訪れを前に、 今シーズン最後の北アルプス山行は鷲羽岳に行ってみることにした。今回は職場の工場長とともに、山小屋に1泊してのピスト ン行だ。距離が長く、がっつりとした山歩きが出来そうだ。 先月の槍ケ岳のときと同様、新穂高温泉の深山荘の駐車場は満車だった。新穂高バスターミナルから蒲田川を渡り、有料駐車場 の先に車を置けるスペースを見つけた。数時間仮眠し、朝食のあと装備を整え5時30分過ぎに歩きだした。まだ辺りは薄暗い が、ランプなしでも問題はない。左俣林道をちょうど1時間で笠新道の入口に着いた。給水を済ませ、先へ進むとすぐにわさび 平小屋がある。ブナ林の道をさらに行くと視界が開け、正面には左俣谷の河原が広がっていた。沢に架かる橋の手前が小池新道 の取り付きとなる。登山道は岩が敷き詰められているが、斜度もそこそこで歩きやすい。天気は快晴で最高の登山日和となるこ とだろう。小池新道を15分も歩くと、右手の稜線上に槍ケ岳が姿を現した。早くも目にした槍ケ岳に気分が昂る。順調に距離 を延ばし、秩父沢の水場までやって来た。ここから1時間ほど登るとシシウドガ原で、脇にはベンチが置かれ、休憩するにはう ってつけの場所だ。振り返ると新穂高は遥か下で、ロープウェイが小さく見え、隣には穂高岳が並ぶ。ここで向きを変え、トラ バース気味に進んで行くと次は熊の踊り場に出た。周りは湿地帯のようになっており、薄っすらと全面が凍っている。道は木道 に変わり、笹が茂る斜面を登って行く。針葉樹が目立つようになり、登りが次第に緩くなると、やがて鏡平に到着した。ここま で天気は快晴だったので、鏡平からの槍穂高の眺めに期待がかかる。池の前にはウッドデッキが設置され、多くの登山者で賑わ っていた。鏡池越しに見る槍穂高は想像通りの素晴らしさで、それが波ひとつない澄み切った水面に映しだされている。絵にな る風景に癒される思いだ。先月来たときは天候が悪く、空振りに終わったので、今回はこれが見られただけでもう大満足だ。ま だまだ先は長い。鏡平山荘で早めの昼食を済ませ、再び歩き出した。しばらく急斜面を登り、右に向きを変えると弓折岳の東面 をトラバースする。40分ほどで弓折乗越にでた。槍穂高に雲が付いてしまったが、そこから続く峰々の眺望は最高で、さっき まで居た鏡平は箱庭のようだ。さて、登山道はここから稜線にかかり、気分的に楽に歩くことが出来る。ハイマツ帯を緩い登り 下りを繰り返し、途中の花見平を過ぎると、行く手に双六小屋が見えてきた。その後ろに聳え立っているのが、これから目指す 鷲羽岳である。双六小屋に到着したのは歩き始めてから7時間を過ぎていた。ここは裏銀座や西鎌尾根、笠ケ岳へといったルー トの要所であるが、今はシーズン終盤のためか閑散としている。ここで休憩し、最後のひと踏ん張りに備える。工場長は早くも 腹が減ったとラーメンを注文しに行った。さて、三俣山荘へは双六岳と三俣蓮華岳を越えて行くものと、双六岳手前の中道、巻 道で行く3つのルートがある。最も楽そうな巻道で行くことにした。双六岳への急勾配を終え、頂上への分岐を過ぎるとそこか ら巻道となる。空は曇ってしまい、さらに気温も下がってきたようで寒くなってきた。左側の斜面は前日に降った雪で白くなっ ている。周囲の平原は夏になると一面お花畑になるが、今ではナナカマドが赤い実を付けているだけで、冬の訪れを感じさせ る。だいぶ疲れが溜まっており、スローペースながらなんとか三俣峠まで来た。三俣蓮華岳には行かず、鞍部にある三俣山荘へ 向かう。山荘が見えてくるとほっとするが、岩場の下りから雪を踏むことになる。慎重に歩を進めるとやがて三俣山荘に到着し た。鷲羽岳を往復する時間はないので明日にしよう。とりあえず今日はゆっくり休みたい。 ![]() ![]() ![]() 5時30分過ぎに出発(写真は下山時) 笠新道入口で給水する わさび平小屋 ![]() ![]() ![]() 左俣谷の河原が広がる小池新道入口 中崎尾根の向こうには早くも槍ケ岳の姿 秩父沢を越え、さらに先へ進む ![]() ![]() ここまでの小池新道を振り返る。遠くに新穂高のロープウェイ シシウドガ原で小休止 ![]() ![]() 熊の踊り場を通過。水溜りはうっすらと凍っていた ここを登りきると鏡平だろうか ![]() ![]() ![]() 先月登った飛騨沢の急登ぶりがよく分かる 鏡平山荘に着いたので、ここで昼食にする ![]() ![]() 弓折乗越へ向かう途中から鏡平を見下ろす 弓折岳の東面を緩やかにトラバースする あっという間に槍穂高に雲がかかってしまった こんな道でも思いのほか変化があり面白い ![]() ![]() 尾根道を行くと花見平だ。解放感があってよろしい 工場長はまだまだ元気だ ![]() ![]() 下り始めると、行く手に双六小屋が見えてきた 新穂高から7時間を過ぎ、ようやく双六小屋までやってきた 背後にはお目当ての鷲羽岳がついにお出まし ![]() ![]() 双六岳へは向かわず、巻道を進む だいぶ雪が目立つようになった。工場長はお疲れ気味 ![]() ![]() まもなく三俣峠だ 鷲羽岳が眼前に迫り、三俣山荘も見えてきた ここからの急な下りは道が凍結しており慎重に ![]() ![]() 3時40分、三俣山荘に到着。疲れた。鷲羽岳は明日だ 日が暮れて、眠りに就く北アルプス 山荘は空いており、食事も美味しいので良かったが、とても寒くて堪らなかった。さて、2日目は朝食を済ませると、ザックを デポして鷲羽岳の往復にかかる。今日も天気は最高だ。朝の冷たい空気を吸い込むと、目の前の鷲羽岳に俄然やる気が湧いてく る。山荘裏のハイマツを抜けると稜線への取り付きとなり、急なザレ道をジグザグに上り詰める。一気に高度が増し、西方には 薬師岳が現れた。振り返ると三俣山荘と、その向こうには三俣蓮華岳が鎮座している。紺碧な水を湛えた鷲羽池を見下ろし、そ こからひと登りすると鷲羽岳山頂に到着した。山頂には先客が一人だけで、ゆっくり展望を楽しむことが出来た。快晴のもと、 まさに眺望日和で、360度どこを向いても素晴らしい眺めが広がっている。東の燕岳から大天井岳を経て槍ケ岳へ至る表銀 座、さらに穂高岳へ続く稜線の先には乗鞍岳と御嶽山がある。その右側手前にひと際目立つピラミッドは先日登った笠ケ岳。三 俣蓮華岳を挟んで、カールを抱いた黒部五郎岳。さらに西に振ると薬師岳の大きな山体が横たわる。山頂付近はだいぶ白くなっ ている。その手前には祖父岳と、そこから踏路は雲ノ平へと延びる。北に目を向けるとすぐそこには水晶岳だ。隣の稜線は裏銀 座縦走路で野口五郎岳から烏帽子岳につながっている。その奥には雪化粧を施した後立山の峰々が遠望できる。これほどの絶景 はそうそう見ることが出来ないだろう。まさに圧巻の大パノラマに言葉はいらない。と言うより言葉にならず、ただひたすらそ の眺めを楽しむのみだ。工場長も満足そうで、言葉少なに魅入っている。さて、いつまでも留まっていたいがそういう訳にもい かず、そろそろ下山しなければならない。新穂高への長い道程をひたすら消化し、16時過ぎに登山口に戻って来ると、この山 旅の終わりを迎えた。あとは温泉にでも入ってさっぱりしようか。 ![]() ![]() 今日も朝から元気に登り始める。同宿した2人が先行している 鷲羽池と槍も絵になる眺めだ 左に恥ずかしそうに頭を出しているのは常念岳 ![]() ![]() 鷲羽岳に到着。ここからの素晴らしい眺めに目を奪われる 槍ケ岳。こちらからだとなんだか平面的に見える ![]() ![]() ![]() 双六岳の向こうに抜戸岳と笠ケ岳。左奥に乗鞍岳と御嶽山 黒部源流と黒部五郎岳。白山も遠望できる ![]() ![]() 穂高岳から槍ケ岳、そして西鎌尾根へと続く稜線 三俣山荘へ帰還。あとは新穂高まで戻る 三俣山荘 三俣山荘に着き、体を休めると急に寒さが襲ってきた。建物の中の温度計を見ると 4度しかない。寒いはずである。数日前に山荘へ電話をしたら、とても寒いのでそ のつもりで来てくれ、とやたら強調していた。なるほどだ。しかも、この週末で山 荘を閉めるためか、ストーブは食堂とホールに一つしかない。夜は建物の中でも氷 点下だった。しかし、寒さで眠れないだろうと思っていたが、持参した衣類をすべ て着込み、余った布団を重ね掛けしたおかげでよく眠ることができた。疲れていた のも良かったのだろう。三俣山荘では宿泊者は8名ほどしかなく、ゆったりと過ご すことができた。また、食事は手作りのハンバーグなどとても美味しかった。 <山行後記> 頂上からの眺めは今さら言うまでもなく、これまでの北アルプスの中では一番だった。 距離はあるが、適所に山小屋が配されており、歩きやすい小池新道と好展望の尾根道 はもう一度訪れてみたいと思った。今回はひとつのピークしか踏めなかったが、これ 以上ない山岳風景に酔いしれるひと時を過ごせ、晩秋の北アルプスの山歩きは充実感 と疲労感に満ちた最高のものとなった。 ![]() |
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