![]()
その姿から鉄兜と称される塩見岳は標高3052メートル。南アルプスの北部 と南部を繋ぐ主稜線の中間に位置し、周囲に3000メートルを超す山がない ことから、この独特の山容はとても存在感を放っている。三伏峠周辺や本谷山 南面には高山植物が咲き乱れるお花畑があり、また、その下には広大は針葉樹 林帯が広がっている。
南アルプス中南部の山にはまだ登ったことがなく、なんとなく未知の領域といった感じだ。イメージとしては、登山口までのア クセスの悪さに加えて、山深くまで入って行く行程の長さがあり、敬遠していたのかも知れない。今回の目的地は塩見岳だ。昨 年の鷲羽岳のとき同様、会社の工場長とともに1泊2日で巡ることにした。 鳥倉林道は入口が分かりづらいが、終点までは細い箇所はあるものの全線舗装でとくに問題なく走ることができる。深夜に登山 口手前の駐車場に到着すると、すでに満車に近い状態だった。なんとか車を置けるスペースを見つけ、さっそく就寝する。いつ もなら早朝から周りが騒がしくなるのだが、今日はそんなことはない。多くの登山者は昨日のうちに出発したのだろうか。7時 ごろ起きると、工場長が朝食の支度をしていた。眠い目をこすり、ゆっくりと食事をしながら出発の準備を整える。今日は三伏 峠にある小屋までなので焦ることはない。のんびり歩いても昼ごろには着けるはずだ。さて、腹を満たしたところで歩きだすこ とにした。車止めのゲートをくぐり、先へ続く林道を進んで行く。平坦な道は豊口山の中腹をまわりこむように延びており、準 備運動のつもりでもくもくと歩くこと40分で登山口に着いた。ここには登山カードのポストと簡易トイレが設置されている。 途中で伊那からやってきたシャトルバス2台に抜かされ、それに乗っていた十数人の登山者が出発の準備をしていた。8時55 分、登山開始。初めからの急登は分かっていたが、やはり堪える。カラマツの植林の中をひたすら登り、とにかく高度を稼いで いく。1時間近く頑張ったところで休憩することにした。次第に勾配は緩くなり、比較的歩き易い道となる。このあたりからと ころどころに道が崩落しているなどの危険な箇所がでてくるが、そこには木組の梯子や階段が架けられている。しかし、この梯 子や階段が逆に危なっかしい。やがて樹林はシラビソの自然林に変わった。木々の密度が薄く明るい道をしばらく行くと水場に でた。ここで明日の分まで給水をしておく。その後、休憩を挟んで40分ほど歩くと塩川小屋からのルートと合流し、やがて三 伏峠に到着した。ここの峠は標高およそ2600mで日本一高い峠らしい。小屋に宿泊の手続きを済ませると、2階の一角に案 内された。まだ時間は早いので荷物を降ろし、近くのお花畑に行ってみることにした。そこにはマツムシソウの群落が広がって おり、烏帽子岳方面へ向かう斜面の上部まで薄紫色の花で覆われていた。今日は時間に余裕があり、小屋で夕食までの3時間ほ どのんびりと昼寝をすることができた。夕食後に外へ出てみると、先ほどまで雲に隠れていた塩見岳が姿を現していた。小屋の 前のベンチで食後のコーヒーを飲みながら、明日登る山をしばらく眺めてみる。このゆったりとした時間は小屋に泊まらなけれ ば味わえないものだ。山の日暮れは早い。まもなく三伏峠も闇に包まれるだろう。 ![]() ![]() ![]() 登山口までは長い林道歩きとなる 40分でようやく登山口にでる 心許ない梯子や階段が架かる登山道 ![]() ![]() ![]() 水場に着いたので給水する 塩川小屋からのコースと合流する まもなく三伏峠だろうか ![]() ![]() 三伏峠に到着。周囲は木々に囲まれている 三伏峠小屋で宿泊の手続きを済ませ、近くのお花畑に行ってみる ![]() ![]() 斜面を染めるマツムシソウの薄紫 雲の間から塩見岳が顔を出した瞬間 2日目は雲が多いものの、ガスってはいなかったため塩見岳をはっきりと見ることができた。改めてその塩見岳までの距離の長 さを実感してしまう。気合いを入れて、5時過ぎに歩きだした。テン場の脇を進み、烏帽子岳方面への道を分けると目の前に小 高い山が現れた。これが三伏山で、まずはこの山を越える。三伏山へは10分で着いてしまった。ここからの眺めはなかなかの もので、朝日に焼ける中央アルプスが素晴らしい。まだまだ先は長いので次へ進む。一旦下り、一気に高度を落としてから再び 上りとなる。急斜面の両側は一面マルバダケブキのお花畑になっており、この中を登って行くと本谷山だ。山頂は小広場になっ ており、ここからは南アルプス北部の名峰がずらりと並ぶ眺望が得られる。遠くには雲に浮かぶ北アルプスもある。そして、間 近に見える塩見岳も素晴らしい。しかし、まだかなり歩かなければならないようだ。三伏峠から1時間近く経ったが、ほとんど 標高に変化がない。景色を眺めながら小休止後、歩きだした。再び下りとなり、僅かながら稼いだ標高を消化してしまい、さら に下っていく嫌なパターンだ。帰りの登り返しがきつそうだ。その後は森林限界付近を行ったり来たりの繰り返しとなり、とこ ろどころに倒木や立ち枯れの木が現れる。右側には木々の間から塩見岳が常に見えているが、なかなか近付かない。しばらく緩 やかな道が続いたが、権右衛門山をトラバース気味に越えるところはかなりの急登である。ゆっくりとここを登って行くと、シ ラビソの中にハイマツが目立ち始め、やがて好展望の尾根に出た。すぐに塩見新道からのルートと合流すると、ほどなく塩見小 屋にたどり着いた。本来ならこちらの小屋に泊まりたかったのだが、満館で予約することができなかった。なるほど、こんなち っぽけな小屋なら仕方がないか。小屋の後ろに聳える塩見岳は三角の峻険な頂を見せ、その前には立ちはだかるようにゴツゴツ した天狗岩が鎮座している。こいつを越えて行くだけでも大変そうだ。さて、いっぷくしたところで最後の仕上げにとりかか る。小屋の後ろに延びる道を、まずは天狗岩に向かって登って行く。ハイマツの尾根道は開放的で気分が良い。初めてアルプス らしい気分を味わうことができた。天狗岩を越えるものと思ったが、南面を巻くようにルートが付いていた。天狗岩を過ぎる と、塩見岳とのコルになり、ここから岩場の急勾配が始まった。チシマギキョウ、タカネシオガマなどの色鮮やかな花々がたく さん咲いているが、そのルートはかなり険しい。ルートにはコースマーカーが真っすぐ上に向かって付けられている。下を見る と、塩見小屋の小さな屋根が林の中に融け込んでいるように見え、高度感抜群だ。足元に注意しながら慎重に歩を進めると遂に 塩見岳に到着した。ここは西峰なので、すぐに最高点の東峰に移動する。こちらからは南東方向に富士山を裾野から見ることが できる。さて、周辺の眺めだが、南アルプスの中央部だけあって眺望には優れている。北部にひと際目立つ山体は甲斐駒ケ岳 だ。そこから北岳、間ノ岳、農鳥岳の白根三山も素晴らしい。思えばこの山並みをこちら側から眺めたのは初めてだった。仙丈 ケ岳から続いているのは仙塩尾根で、さらにこの先は蝙蝠岳まで延びている。こんな縦走路をいつか歩いてみたいものだ。反対 側にある悪沢岳や荒川岳といった名山も目を引く。曇り空となってしまったが、南アルプスを代表する山々の眺めを十分堪能す ることができた。狭い山頂は次第に人でいっぱいになってきた。そろそろ下山しようとしたところ、どこからともなく一匹のオ コジョが現れた。体長20cmほどで、我々の足元をちょこまか走り回る姿に、なんだか癒される思いがした。最後に幸運にも オコジョに逢え、気分良く山頂を後にすることができた。 ![]() ![]() 三伏山の手前からは眼下にお花畑が見える すぐに三伏山に着いた。メインの塩見岳もバッチリだ ![]() ![]() 小屋を振り返る 朝日に染まる中央アルプス ![]() ![]() マルバダケブキのお花畑の中を登っていく 50分ほどで本谷山に到着。まだまだ余裕 ![]() ![]() 塩見岳の眺めが素晴らしい。しかしまだ距離がある 南アルプス北部のパノラマ ![]() ![]() 権右衛門沢源頭からシラビソの急登を行く 塩見新道からのルートと合流する ![]() ![]() 塩見小屋に到着。後ろに控えているのが塩見岳だ 目の前に立ちはだかるように天狗岩 ![]() ![]() 写真では分かりづらいが、かなりスリリングなルート 約4時間歩いて塩見岳に到着 ![]() ![]() 最高点の東峰に行ってみる ![]() 南アルプス北部の大パノラマは圧巻だ。手前の稜線は仙丈ケ岳まで続く仙塩尾根 ![]() ![]() 仙丈ケ岳と右奥には甲斐駒ケ岳 北岳と間ノ岳 ![]() ![]() こちらは荒川岳をはじめとする南部の眺め ちっぽけな塩見小屋を俯瞰する ![]() ![]() ![]() ![]() マツムシソウ ウメバシソウ タカネグンナイフウロ トリカブト ![]() ![]() ![]() ![]() ハクサンフウロ チシマギキョウ タカネツメクサ タカネシオガマ と シコタンソウ 三伏峠小屋 塩見小屋の予約が出来なかったので三伏峠小屋になってしまったが、こちらのほうは 建物が大きく、宿泊者も満杯でなかった。また、内部もきれいで、食事もまあまあで とても快適に過ごすことが出来た。小屋番のオヤジがちょっとばかり無愛想で怖い感 じがするが、なかなか良いところだった。そして、日本一高い峠に建つ山小屋に泊ま ったというのも何だか嬉しい気がする。 <山行後記> 深い。とにかく深い山だ。三伏峠から先の行程が長く、樹林帯のアップダウンの繰り 返しの果てにようやく山頂に辿り着けたので感無量。塩見岳の山深さを実感した。1 日目を三伏峠までとしたので、到着後はのんびりと過ごすことができたので良かった。 久しぶりの南アルプスは少々きつかったが、まずまずの天候で、景色も楽しむことが できた。 ![]() |
|
|