93光岳


 味わい深い南アルプスの端っこの山
てかりだけ


(2591m)
                                                                             静岡県静岡市葵区・榛原郡川根本町
                                                                             長野県飯田市



           南アルプスの最南端にひっそりと佇む光岳は標高2591メートル。
           山容にそれほど目立ったところはないが、山頂周辺はハイマツの自生
           する南限であり、また、広大な針葉樹林や貴重な高山帯の植生が分布
           することで知られている。豊かな自然と静かな山。それが光岳の最大
           の魅力だろう。



 2010年8月21〜22日    曇/晴

 ・コース
  易老渡⇔面平⇔易老岳⇔三吉平⇔静高平⇔
  光小屋(泊)⇔光岳⇔イザルケ岳⇔静高平

 ・1日目 8時間35分 、 2日目 4時間00分
      (光小屋まで)

 ・標高差 1711m

 ・歩程 16.0km
  



矢筈トンネルを抜けて、国道152号線から登山口までの林道に入る。遠山川に沿って30分ほど走ると、次第に道路の状況が
怪しくなってきた。それは進むにつれて不安になってくるほどの悪路と変わり、おまけに深夜ということもあって、登山口のあ
る易老渡に着くと、ほっとする思いがした。前回の塩見岳同様、南アルプス南部の深さを実感する。駐車スペースはほぼ埋まっ
ていた。明るくなるまでの数時間を仮眠にあてる。五時に目を覚まし、軽い食事を済ませると出発の準備にかかった。2組ほど
のパーティが先行して出発したところ、こちらも6時前には歩きだすことが出来た。林道を数十メートル戻ったところに取り付
きの赤い橋が架かっている。易老岳まで6時間、光岳まで8時間と書かれた看板がぶら下がっており、本日の行程の長さに早く
もうんざりする思いだ。橋を渡るとその先には急登が控えていた。この急勾配のルートをこれから数時間かけて易老岳まで登り
詰めることになる。むせぶような深緑の森の中を、初めは体力と気力に任せてどんどん高度を稼いでいく。出発時の空模様はい
まひとつすっきりしないようだったが、この樹林帯においてはそんなことはあまり気にもならない。それより風が抜けずに蒸し
暑い。ここまで登山道は特別に足場が悪いという訳ではないが、大小の岩が表出しており歩きづらい。休まずに急勾配をひたす
らジグザグに詰めていくと、1時間30分ではじめて道が緩み、平坦な小広場にでた。ここが面平というところだ。登山口から
は600メートルほど登ったであろうか、最初の休憩をとることにした。辺りはヒノキの自然林に囲まれた、とても雰囲気の良
いところである。再び始まる急登は容赦なくどこまでも続いているようで、次第にペースが落ちてくるのが分かった。コメツ
ガ、シラビソといった針葉樹林の中をもくもくと進んで行き、そして息を整えるために小休止を繰り返す。途中で静岡から来た
というおっさんと出会ったので、その後は一緒に歩いてみることにした。しばらくすると左手に木々の切れ間から聖岳の山体を
望むことが出来た。実は、出来ることなら2日間で聖岳へも縦走したいと考えていたのだが、こんな状態ではとんでもないこと
だ。しかし、光岳1本に絞れば気分的には楽になる。静岡のおっさんは光岳には2度登っており、聖岳へも縦走したことがある
と自慢げに話している。見た目もしゃべり方も漫画家の蛭子能収にどことなく似ているが、なかなか侮れない人のようだ。面平
からこの急登をどれほど歩いただろうか、少々うんざりしてきた頃、三角点のある小ピークに達した。ここが2254m地点ら
しい。ここまでの登りは本当にきつかった。小ピークを過ぎるとロープの張られた岩場があり、これを慎重に通過し、最後にひ
と踏ん張りすると易老岳に到着した。歩き始めて5時間、どうにかコースタイムでおさまった。これで聖岳と光岳との縦走路と
合流したことになる。くだんの蛭子さんは、ここまで来ればもうあとは楽勝だと喜んでいる。易老岳からはほとんど眺望が得ら
れない。疲れているが、先を急ぐことにした。縦走路を右に進むと下りとなり、シラビソ林の中に白骨化した立ち枯れの木が目
立つようになる。鞍部に出るとそこは右側が崩落した三吉ガレで、今日初めての展望が広がっていた。雲がだいぶ出てしまった
が、解放感があり、風も吹いているので心地良い。この後はアップダウンを繰り返して三吉平を通過すると、涸れ沢の下部に至
る。ここからの登りがまたきつい。沢に沿って真っすぐに登っていくのだが、スローペースのためか1時間たっても終わらな
い。上を見るとガスっているため、どこまで続いているのか分からない。蛭子さんは先ほどから熱射病気味とかで、休んで水ば
かり飲んでいる。そもそも易老岳まで来ればあとはたいしたことないと言っていたではないか。まあ、こちらも疲れているので
休み休みだ。涸れ沢の両岸はお花畑になっており、一面をトリカブトが青紫色に染めている。次第に勾配が緩んでくるとやがて
静高平で、ついにこの急登の終わりをむかえた。静高平の水場で一服し、あとは光小屋まではのんびり歩ける。草原の中に延び
る木道を行くと、そこはセンジヶ原だ。正面に見えるのは光小屋で、その向こうに光岳の山頂があるはずだが、雲に隠れてしま
っている。木道を左に分岐すると、その先はイザルケ岳で、こちらは明日の帰りにでも寄ってみることにする。幕場を過ぎると
すぐに本日の宿、光小屋に到着となった。登山口からは8時間30分を越えていた。今日の天気は期待できないので、光岳は明
日の朝にしよう。小屋に入ると管理人のオバサンが温かいお茶でもてなしてくれた。さすが茶どころ静岡だけあって、これがと
ても美味い。さて、荷物を置くと、お楽しみのビールタイムだ。だいぶ遅くなってしまったが、ランチもしっかり摂った。蛭子
さんはどこかの人を捕まえて光岳のことを講釈している。食後は小屋に戻り、しばらく横になることにした。このまったりした
時間が好きだ。しばらくすると、隣に京都から登りに来たオジサンがやってきたので、いろいろと山の話などして過ごすことが
出来た。オジサンは来週、聖岳からここまで縦走すると言っていた。

  
     易老岳の駐車場までは悪路だ          林道を少し戻ると登山道入口             どこまでも続く急勾配

 
         1時間30分で面平に着く。ここで休憩する                倒木などあり、ところどころ道は荒れている

 
     木々の切れ間から見えた聖岳はとても大きく風格が漂う            5時間で易老岳に到着。眺望なし。先を急ぐ

 
   立ち枯れの木々の中を行くと、前方にイザルケ岳が見えてきた             三吉ガレで初めて展望が広がる

 
        三吉平から先の涸れ沢はとてもきつかった               小休止を繰り返して登る。トリカブトの群落が鮮やか

 
      道が緩やかになってきたので、まもなく静高平だろう               静高平でやっとほっとする思いがした

 
        小屋に泊まる場合はここで給水するように                  南限のハイマツ帯の中を光小屋に向かう

 
      センジケ原の亀甲状土。よく見るとおかしな風景だ                 木道を左に行くとイザルケ岳だ

 
          光岳周辺のロケーションの良さが分かる             8時間35分で光小屋に到着。今日はもうゆっくりしたい


2日目の朝はだいぶゆっくりできた。5時に目が覚めると、他の人は全員起きており、外に出てご来光を待っていた。こちらは
別にご来光はどうでもよいのだが、ひとりで寝ているのもばつが悪いので慌てて起きた。もっと寝ていたかったのに。イザルケ
岳の向こうから日が昇ってきたのを見とどけてから山頂へと歩きだした。光岳には小屋の裏の斜面を10分ちょっとで着いた。
山頂は樹木に囲まれていた。10メートルほど奥に進むと展望台があり、ここからは眺望が得られた。眼下には一面に雲海が広
がっており、その上に南アルプス深南部の山々が頭を覗かせている。すぐそこには名物の光岩が見える。それは、木々の中から
突出した岩峰で、どこにでもあるようなものだった。麓から眺めたときにこの岩が光って見えたらしく、それが山名になったと
言われている。かなり眉つばものだが、山名の由来などどこでもこんなものだろう。一旦、小屋に戻ってデポしたザックを回収
した。すぐに下山しようと思ったが、その前に朝のコーヒーでも飲むことにしよう。今日は時間がたっぷりあるのだから。ゆっ
くりコーヒーを飲んだあと、6時15分に光小屋を後にした。ここまで来たのだから、駄賃ついでにイザルケ岳にも行ってみよ
う。山頂は広く、360度の眺めが素晴らしい。先ほどまでいた光岳と小屋がよく見える。反対側には茶臼岳、上河内岳、聖岳
が連なる眺めだ。誰もいない山頂はとても静かだ。さて、そろそろ易老渡まで戻ることにしよう。下山途中、三吉平付近で昨日
の光小屋で隣同士だった、京都から来たオジサンと出会った。このオジサンとは後に偶然の再会をすることになる。

 
                黎明の南アルプス                            朝日を浴びて目覚める山々

 
            光岳へは小屋から10分ちょっと                       深南部の山々が雲海に浮かぶ

 
   あまり眺望はないと思ったが、なかなかいい眺めじゃないですか     シラビソ林を突き抜けるように光岩。数分で行けるらしい

 
    光小屋の下にはセンジケ原が見える。そろそろ下山する             ついでにイザルケ岳にも寄り道してみた
                                                 こちらの山頂は広く、360度の眺望が素晴らしい
 
         茶臼岳、上河内岳、聖岳、兎岳のパノラマ                         光岳と光小屋
            この山並みを歩いてみたかった




          光小屋
          センジケ原を前景に建つ光小屋は、環境の良さに加えて周辺のロケーションが素晴ら
          しかった。小屋内は綺麗で、スタッフもいい人ばかりだ。夕食後は同宿した人たちと
          山の話などができ、楽しいひと時を過ごせた。食事の提供には規則がある。それは、
          50歳以上で3名以下のグループ、15時までに到着した人のみに制限される。当日
          は光岳登頂後、茶臼小屋に宿泊するつもりだったので、2食分しか食料を持っていか
          ず、翌朝の朝食は余った行動食とコーヒーだけになってしまった。




        <山行後記>
          登山口までのアプローチには難儀した。ルートはきつい登りが続き、かなり体力を要す
          るタフなものだった。山頂から見た聖岳へは、やはりここから縦走してみたいとあらた
          めて感じた。光小屋はスタッフも含め、とても良い小屋で快適にのんびりできた。きつ
          い行程の中にも素晴らしい自然と、南アルプス南部のふところの深さを実感することが
          出来た山旅となった。





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