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大雪山系の最奥、山懐に抱かれたトムラウシ山はどのルートからも遠く 長い時間歩かなければ山頂に立つことが出来ない。それ故に貴重な動植 物をはじめ、手つかずの素晴らしい環境が残されている。深山にひっそ りと佇む遥かなる頂は岳人憧れの名峰である。 北海道の山の中で一番気になっていたのがトムラウシ山だ。 この山は日帰りするには楽ではない。
その上、帰りの飛行機の時間もあるので10時間で戻って来なければならない。
【 旭川空港 --- 十勝岳 --- トムラウシ温泉(泊) --- トムラウシ山 --- 旭川空港 】
昨日は十勝岳を終えるとトムラウシ温泉に移動し、東大雪荘に投宿した。ここは国民宿舎だがとても立派で小奇麗な宿だ。出来 ればもう少しゆっくりしたかった。朝3時半に目が覚めると外からは雨の音が聞こえてきた。予報通りとは言え憂鬱になる。な かなか起きる気になれず、しばらくベッドに横になったままだ。結局宿を出たのは4時半になってしまった。30分車を走らせ ると短縮登山口へ到着した。駐車場にはトイレはあるが水場はなく、車が5台ほどしかいない。予定の時間よりすっかり遅くな ってしまった。準備を済ませ5時15分、雨の中を歩き始めた。なだらかな道を進んで行くと、まずトムラウシ温泉への分岐に 出た。右がトムラウシ山だが8.5kmと書いてある。先は長い。やや斜度が増してきた道をさらに50分でカムイ天上と言う ところに着いた。眺望が得られず天上どころではなく、また、登山道は昨日からの雨でたくさんの水溜りができており歩きづら い。ここから笹原を切り拓いた新道になる。林を抜けると雲が切れたようで、一瞬雨が止み薄陽も差して来た。すると近くの山 並みが姿を現した。右手には前トムラウシ山があり、その先に目指すトムラウシ山があるはずだ。この辺りは本来なら気持ちよ く歩けそうなところかもしれない。その後はしばらく下りの道が続くが、これがヌタヌタ状態で足首まで泥水に浸かってしま い、足元はすっかり泥だらけとなってしまった。だいぶ標高を落としたところでコマドリ沢に出た。200mほどの沢はもう少 し早い時期なら雪渓が残っているが、今は水も流れていない。さて、出発してから間もなく3時間になろうとしている。疲れも あるが、雨の中、時間を気にしながらなので精神的にもきついものがある。果たして山頂にたどり着けるのかとさえ考えだし た。とりあえず歩くしかない。沢に沿って登ると、その先には溶岩石が敷き詰められた広い斜面が現れた。この岩の上を慎重に 渡って行くと、そこはケルンのある丘だ。開放感があり、天気が良ければトムラウシ山が目の前に見えるのだが。また、この岩 場では愛くるしいナキウサギの姿を見ることが出来た。ケルンのある丘を過ぎると、その先にあるのはトムラウシ公園だ。大小 の奇岩と沼が点在し、それがガスの中に浮かぶ様はとても神秘的だ。ゆっくりこの景色を楽しみたいところだが、その時間は無 く、こんな天気ではどうしようもない。前からやって来た登山者に聞くと、山頂まではもう少しだと言う。右手方向に続く斜面 からは十数人の団体が下りて来た。これが最後の上りだろうと20分ほど頑張ると遂にトムラウシ山頂上に到着した。どうにか タイムリミットには間に合った。疲れているがさっさと下山開始だ。泥だらけになりながらも、帰りは思ったより早く着くこと が出来た。 ![]() ![]() ![]() 短縮登山口には数台の車 雨の中、歩き始める 15分ほどでトムラウシ温泉への分岐 ![]() ![]() ![]() 天上とは名ばかり 登山道は水溜りで泥だらけ 一時的に薄陽が射すことも ![]() ![]() カムイ天上をしばらく進むと前トムラウシ山が現れた この先からいったん下りになる ![]() ![]() コマドリ沢を登り始める。それほど距離はなく、雪渓もない コマドリ沢の上部で4人のパーティーとすれ違う ![]() ![]() 岩礫帯を過ぎると前トム平に出る ケルンのある丘。ここでナキウサギを見た ![]() ![]() ようやくトムラウシ公園までやってきた 自然が織りなす美しい庭園風景 ![]() ![]() 様々な形の岩が点在する 目の前の斜面を登りきると山頂になる ![]() ![]() 5時間30分でなんとかトムラウシ山に到着。すかさず下山する 今回の基地とした国民宿舎 東大雪荘 とりあえず山頂に立てたのは何より はじめから日帰りするにはたいへんな山という思いがあったので、当日の雨天には参って しまった。泥濘の登山道には閉口する思いだし、歩いて行くうちに蓄積する疲労と、帰り の飛行機のために11時までに登頂しなければというタイムリミットもあったので、精神 的にきつい山行であった。とくに前半は歩きながら、登頂を諦めて戻ろう戻ろうという気 持ちと常に戦っていた。悪天候による眺望なしの登山なら慣れっ子だが、時間を気にしな がらの長い行程はボディブローのように効いてくる。こんな日は早発ちすることぐらいし か手だてがないのか。 トムラウシ温泉 東大雪荘 国民宿舎というのでもっと小さな宿を想像していたが、とても立派でモダンな宿だった。 食事はまあまあで、温泉は内風呂が多少の塩素臭が気になったが、川を眺めながらの露 天風呂はなかなか良い。通常は二人以上からのようだが、一人登山のときは予約時に確 認するといい。筆者は一人で利用したが、部屋は綺麗でこざっぱりしており、とても快 適であった。玄関先に汚れた靴を洗うためのコーナーがあり、下山時には重宝した。空 港に戻る前に温泉でサッパリしたかったのだが、時間がなく温泉には入れなかった。 <山行後記> 一時は登頂を断念しようかと思っただけに、無事にたどり着けたのでほっとした。 前半は退屈な道が続くが、コマドリ沢からは見どころに富んだ変化のある道が続 いた。雨のため、道の悪さには閉口する思いをしたが、こんな天気でもトムラウ シ山の素晴らしさは十分感じることが出来た。山深いところだけに、日帰りする には時間に余裕ある行動を心がけたい。
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