![]()
標高2999m、立山連峰の北部に位置する剱岳。その山容はあくまで峻険 で、天に聳えるように屹立する岩稜は他を圧する存在だ。来る者を容易に寄 せ付けず、古くから畏敬と憧憬の対象とされてきた。岩と雪の殿堂と称され、 日本有数の雪渓と岩場を有する。スリルと展望に満ちたルートは、まさに国 内屈指の難易度といえる。 【 立山 --- 剣山荘(泊) --- 剱岳 】
4時に目が覚めた。睡眠時間はたっぷりあったが、両側からのいびき嵐でぐっすり眠れなかった。窓の外を見ると、剱沢からや って来る人の灯りが続いていた。周りの人たちが次々に出発していくので、こちらも4時30分にランプを灯し歩きだした。山 荘の裏手に延びるハイマツの斜面を15分も行くと、空が白み始めてきた。身体が温まってきた頃に一服剱に到着した。ここま では準備運動といったところか。すでに剣山荘は遥か下で、これからの展望に期待が高まる。眼前に大きく立ちはだかるのが前 剱で、これを越えるだけでもかなり大変そうだ。ここからでは、まだ剱の本峰は前剱に隠れて窺うことができない。ひと息入れ るには丁度良いところだが、こちらはそのまま先へ進むことにした。ガレ道を一旦、武蔵のコルまで下る。その後は前剱に続く 稜線になった。大きな石が浮いており、落石に気を付けながら登って行くと、やがて鎖場に出た。数名の団体だろうか、ガイド の指示を受けて鎖をゆっくりと登っている。鎖場では少々待たされたが、これを越えるとすぐに前剱に着いた。真正面には剱岳 本峰が、その圧倒的な姿を現した。何という迫力ある光景だろう。西側の谷を見下ろすと、早月川とその向こうに日本海がうっ すらと見える。前剱からは登りと下りでルートが分かれる。鎖の掛けられた斜面を下ったところが平蔵のコルだ。ステンレス製 の橋を渡り、次に現れた岩山は鎖を使ってトラバースする。この辺りが剱岳登山の核心部となるところだろう。遠目にはかなり スリリングだが、実際に歩いてみると、大したことはない。が、一歩足を踏み外せば只では済まないだろう。さて、いよいよメ インであり、最難関でもあるカニのタテバイのお出ましだ。やはり、ここでも渋滞がおきていた。と言っても、15分ほどで、 酷いときには数十分にも及ぶそうだ。落石が怖いので、先行者との間隔が十分に広がってからとりかかることにした。長い鎖と 足掛かりの鉄杭が打たれているが、しっかりと三点確保で登攀して行けば、鎖に頼らなくても大丈夫だ。カニのタテバイは予想 外に呆気なく終わってしまった。その後、しばらく進むと剱岳の山頂に到着した。いつか登ってみたいと思っていた剱の頂に遂 に立つことができ、感無量だ。何とも言えぬ充実感であり、この余韻に浸りながらしばしの間、休憩することにした。山頂は岩 がゴロゴロしており、落ち着いて休めるところは少ないが、それでも多くの登山者で賑わっていた。360度の眺めは文句なし のひと言に尽きる。昨日登った立山と、そして大日岳、その向こうに黒部五郎岳、水晶岳、左には槍ケ岳、常念岳とさらに南ア ルプスまでが。北側には八ツ峰の鋭い稜線が続いている。白馬三山、唐松岳、五竜岳、鹿島槍ケ岳の山並みも一望のもとだ。も う少しこの絶景を堪能していたかったが、この後もまだ長い。名残惜しいがそろそろ山頂をあとにするか。下りのメインは何と 言ってもカニのヨコバイだろう。山頂を発ったタイミングが悪かったのか、ここでもしばらく待たされてしまった。カニのヨコ バイは初めの一歩を慎重に踏み出さなければならないが、その後は問題ない。一服剱まで順調に戻ってくると、剣山荘には向か わず、クロユリのコルを経由して別山乗越へ。剱御前小舎でひと休みし、ここからは雷鳥沢への長い下りをひたすら消化して行 く。疲れが溜まっているためか、雷鳥沢から室堂へは思いのほかキツイかった。それでも予定していた時間よりも、だいぶ早く 戻って来ることができ、今回の山旅を終えることとなった。 ![]() ![]() 10分ほど歩いたところから剣山荘を振り返る 一服剱までは準備運動、ここからが本番だ 目の前に立ちはだかる前剱を登るだけでもたいへんそうだ ![]() ![]() 浮き石で滑りやすい登山道。下からは続々と人がやってくる 1時間15分で前剱に到着。いよいよ剱岳が近づいてきた ![]() ![]() 立山、別山、剱御前が手に取るような眺め。剣山荘も小さく見える 起伏のあるルートは好展望で楽しい ![]() ![]() 息が抜けない岩場が続き、時おり渋滞することもある しっかりとした梯子が架かっているが、落ちれば命はない ![]() ![]() 平蔵のコルから岩峰群を振り返る 行く手を阻むようにそそり立つカニのタテバイ ![]() ![]() 見ていてもなかなか進まない団体一行。15分ほど待たされる いよいよクライマックスのカニのタテバイにとりかかる ![]() ![]() 登ってみるとあまりにも呆気なく終わってしまった 2時間50分で剱岳に到着 ![]() ![]() ![]() 八ツ峰の険しい岩峰群と、爺ケ岳、鹿島槍、五竜岳のシルエット ![]() ![]() 立山のアップ 早月尾根からのルート。遠く日本海を望む ![]() ![]() 下りのカニのヨコバイ 一服剱からはクロユリのコルを経由して別山乗越まで戻る ![]() ![]() 険しい岩山と緑の絨毯がなんとも絵になる風景 剱沢ごしに見た剱岳。向こうには白馬岳から五竜岳への眺め ![]() ![]() 別山乗越の剱御前小舎に到着 雷鳥沢の下りは楽ではなかった。室堂まではあとひと踏ん張り ![]() 今回のルートのおさらい。赤が1日目、青が2日目 <山行後記> 天候にも恵まれ、最高な山歩きが出来た2日間だった。立山の縦走は展望に優れ、稜線 には多くの花が咲き、飽きることがない。剱岳の岩場は注意が必要だが、岩登りが好き な自分としては、とても楽しむことが出来た。山頂からの雄大なパノラマには文句の付 けようがなく、また、別山乗越から見た剱の素晴らしさも印象的だった。快適な剣山荘 に泊まる2日間で、憧れの剱岳を十分に、余裕をもって堪能することが出来た。
![]() |
|
|