99水晶岳


 遥かなる頂、北アルプス一の眺望を満喫
すいしょうだけ


(2986m)
                                                                                          富山県富山市



           裏銀座縦走路の赤岳から主稜線を外れるとやがて水晶岳へとたどり着
           く。北アルプス最深部に位置しており、その道程から登頂には長い時
           間を要する。しかし、山頂からは北アルプスのすべてを見ることがで
           き、まさに眺望が自慢の山といえる。山頂部の険しい岩稜帯から南北
           に大きく稜線を伸ばし、その東斜面には圏谷も見られる。その姿は黒
           部源流域に聳える孤高の頂である。



  失意の撤退を余儀なくされてから2週間。早くも水晶岳リベンジのときがやってきた。
  今回は無理のない3日間で山頂を目指す。
  また、ルートは新穂高温泉からのピストンとした。
  各地に被害をもたらした台風15号も遠ざかり、今週末は台風一過の好天が期待できそうだ。


 2011年9月23〜25日    

 ・コース
  新穂高温泉⇔わさび平小屋⇔鏡平山荘
  ⇔双六小屋(泊)⇔双六岳巻道⇔
  三俣山荘(泊)黒部源流岩苔乗越
  水晶小屋⇔水晶岳

 ・1日目 7時間15分(双六小屋まで)
  2日目 9時間00分(三俣山荘まで)
  3日目 6時間55分

 ・標高差 1869m

 ・歩程 42.0km
  



新穂高温泉バスターミナル前に掛かる橋を渡り、林道を進んで行った先に車を置こうとしたが、路端には駐車禁止のコーンがび
っしり並んでおり、とても車を置けたものではない。仕方がないので鍋平高原の駐車場まで戻った。寒さであまり眠れないまま
出発の朝を迎えた。ターミナルまで歩いて行くのも大変なのでロープウェイで下ることにしたが、その始発まではかなり待たね
ばならない。結局、新穂高温泉駅から歩き始めたのは8時40分を過ぎていた。当初の予定では林道奥から5時30分に出発す
るはずだったので、3時間以上の遅れとなった。さて、小池新道は2年前の鷲羽岳で歩いたことがあるため、まだ記憶に新しい。
まずは初めのポイントである鏡平を目指していく。秩父沢、イタドリヶ原、シシウドヶ原とゆっくりペースながら順調に歩を進
める。何度か休憩を繰り返しながら、1時35分に鏡平に到着した。正面に見えるはずの槍穂は雲に隠されていた。山荘前には
多くの人たちが食事や休憩をしていたが、こちらは一服しただけですぐに歩きだした。今日は三俣山荘までの予定だったが、出
発が遅れたため双六小屋までに変更した。弓折乗越から花見平を過ぎ、しばらく尾根沿いに行くと前方に双六小屋が見えてきた。
とりあえずはホッとした気分だ。双六小屋には7時間15分で到着した。時刻は4時になっていた。疲れもあるので今日はここ
までとしよう。鷲羽岳を覆っていた雲もすっかりとれ、明日の好天を予感させる。

  
     遅くなってしまったが早速出発            わさび平小屋の名物            小池新道からいよいよ登っていく

  
     1時35分、鏡平山荘に到着           休憩もそこそこに鏡平を出発      花見平を過ぎた辺りで一瞬雪が落ちてきた

  
      双六小屋が見えてきた              4時、双六小屋に到着           鷲羽岳にかかっていた雲がとれた
     鷲羽岳は雲に包まれていた


2日目の朝になった。雲ひとつない最高の天気だ。今日はいよいよ水晶岳を目指す。朝食のあと準備を済ませ、6時に歩き出し
た。小屋裏手の急斜面を登り、双六岳との分岐は巻道を進む。2年前の鷲羽岳の時と同じルートだ。樅沢岳の向こうには槍の穂
先が見えている。そして行く手には鷲羽岳と水晶岳の眺めが素晴らしい。三俣峠を過ぎるとやがて眼下に三俣山荘が見えてきた。
双六小屋から2時間30分で三俣山荘に着くと、宿泊の手続きをし、休憩もそこそこに早速水晶岳へ向けてスタートした。ここ
からが本番だ。今回は目の前に聳える鷲羽岳を越えずに、黒部源流を経由するルートで行くことにした。こちらのほうが水晶岳
までのコースタイムで1時間早い。まず、テン場の脇から続く道を進む。小さな沢に沿って緩やかに下って行くと、頭上に鷲羽
岳が大きく迫るように見えてきた。後ろには三俣蓮華岳だ。紅葉にはまだ早く、樹々の色付きはまだまだのようだ。しかし、周
りを眺めれば深まりゆく秋をそこかしこに感じることができる。三俣山荘から30分ほどで下りが終わり、黒部川水源地にでた。
そこには木の枝に隠れるようにひっそりと源流を示す標柱が建っていた。源流の初めのひとしずくをイメージしていたのだが、
すぐ近くにそれらしきものはなく、少し先へ進んだところではかなりの勢いで水が流れ出ていた。さて、ここからは登りとなる。
左には祖父岳があり、それを回り込むようにルートは雲ノ平へ分岐している。右へ延びるルートを何度か休憩しながらゆっくり
登って行く。疲れが溜まってきているものの、爽やかな気候でとても気持ち良い。ときどき足元を流れる清流で喉を潤す。この
あたりは夏ともなれば多くの花が咲き乱れることだろう。全体的に岩がちの道が続くが、思いのほか変化がある。先ほどまでほ
とんど人と出会わなかったが、この頃からすれちがうようになった。見るとかなりライトパッキングな人がいるので、おそらく
黒部水源地を見学してくるのだろう。しばらく登りを詰めていくと、左手に薬師岳が徐々にせり上がってきた。そして、岩苔乗
越に着くと目の前に水晶岳のがっしりした山体が現れた。振り返ると黒部五郎岳が構えており、昨年苦労して登ったことを思い
出した。尾根へはあと少しのところで、すでに最高の眺めだ。岩苔乗越は雲ノ平、高天原、水晶岳と鷲羽岳へ通じる十字路とな
っている。雲ノ平、高天原にもいつか行ってみたい。さらに、ワリモ北分岐を過ぎ尾根に乗ると、そこからの眺望は申し分ない
ものだ。この眺望に目を奪われながら、しばし息を整える。さて、ここで鷲羽岳とワリモ岳を越えたことになった。さらに続く
道を、パノラマを堪能しながら進んで行く。そして、赤岳のピークの反対側に出ると水晶小屋に到着した。ようやくここまでや
ってきた。先日、水晶岳を目指し、無念の撤退をした地点が東へ延びる尾根の先に確認できた。あとは山頂へ向けてラストスパ
ートだ。小屋からしばらくは、ほとんど平坦な稜線で快適に歩くことができる。次第に傾斜が増し、足場も悪くなってくると、
最後は急峻な崖となった。上方の一番高いところを目指して登り進むと遂に水晶岳に到着した。双六小屋を出発してから6時間
10分がたっていた。山頂は狭く、落ち着ける場所がない。どうにか足場だけ確保し、ゆっくり眺望を楽しむことにした。36
0度どこを向いても凄い眺めが展開している。山頂から北へ目を向けると赤牛岳が横たわり、立山と剱岳へ続く。奥には白馬岳
があり、南に唐松岳、五竜岳、鹿島槍ケ岳、針ノ木岳と後立山の名山が並ぶ。眼下の黒部湖は穏やかに紺碧の水をたたえている。
烏帽子岳から白い稜線を辿ると三ツ岳、野口五郎岳、そして水晶小屋へ至る。また、燕岳から大天井岳、常念岳といった裏銀座
と表銀座の山々が一望のもとだ。北鎌尾根から立ち上がる槍ケ岳は北アルプスのランドマークに相応しい眺めで、穂高連峰も存
在感抜群である。槍ケ岳の先には南アルプスと富士山が遠望できる。今日はこの時間になってもガスがわかず、青空のもと素晴
らしいパノラマが広がっている。南には鷲羽岳、三俣蓮華岳、その向こうの三角は笠ケ岳だ。さらに右に振ると特徴ある黒部五
郎岳、そして、北ノ俣岳から太郎兵衛平を挟んで巨大な薬師岳が構えている。手前の雲ノ平には小さな山荘が俯瞰できる。なん
という凄い眺めだろう。北アルプスのすべてを見渡すことができる。目の前に広がる息をのむ絶景に言葉がない。とくに今回の
水晶岳は、一度登頂を断念しただけに嬉しさもひとしおである。誰もいない山頂にひとりたたずむ。風の音しか聞こえない。ゆ
っくりとした時間の流れを感じる。いつまでもここに留まっていたい、そんな思いがした。帰りは往路と同じで、3時に三俣山
荘に戻ってくると2日目の行程を終えた。夕飯まではまだ時間がある。山荘前の広場に出ていつものように景色を見ながらビー
ルを楽しもう。このひとときがたまらない。暮れゆく秋のなか、至福のときが流れていた。
となりの人のイビキに悩まされ、すっきりとした朝を迎えられなかったが、まあいつものことだ。最終日も朝から青空が広がっ
ていた。朝食を済ませ、6時過ぎに出発。長い道のりを順調に歩き、1時に新穂高温泉に無事戻ってくることができた。

  
    双六岳分岐で巻道を選択した         丸山、三俣蓮華岳、鷲羽岳の眺め           槍穂も素晴らしい

 
                   目の前に大きく鷲羽岳。ワリモ岳を挟んでその先に目指す水晶岳がある

  
          三俣峠を越え                三俣山荘が見えてきた         三俣山荘に到着。手続き後すぐに出発

 
    山荘から黒部源流まで下って行く。目の前には祖父岳                振り返ると黒部五郎岳のカール

 
    黒部水源地。激流の黒部川はここに端を発し日本海へ              ワリモ岳の西側を尾根に向かって登る

 
         岩苔乗越に出ると一気に眺望が開ける               水晶岳へと続く稜線。疲れているが快適に歩ける

 
   眼下には雲ノ平と山荘。その向こうに北ノ俣岳と太郎兵衛平       薬師岳と水晶岳のツーショット。この対比もなかなか面白い

 
              再び槍ケ岳とご対面                         燕岳から大天井岳へ続く表銀座の稜線




 
         この先のピークは水晶小屋のある赤岳                    11時30分、水晶小屋に到着

 
           山頂へ向けてすぐに歩き出す                        東側は野口五郎岳からの縦走路

 
     緩やかな尾根から、山頂手前は険しい岩場に変わる               朝から6時間10分で水晶岳に到着
                                                       どこを見ても最高な眺めだ






 
    雲ノ平の先に構える黒部五郎岳。白山まで遠望できる                 ひときわ存在感のある薬師岳

 
       穏やかな湖面を映す黒部湖と立山、白馬岳                     一番目立つ槍ケ岳と穂高岳

 
            3時に三俣山荘に戻ってきた                素晴らしい山旅に乾杯!! 槍をツマミにビールが美味い



          双六小屋
          ルートの要所に建つ双六小屋は周辺の小屋の中で収容人数が多く、規模も比較的大き
          い。目の前に鷲羽岳を望み、立地環境に優れている。宿泊当日はかなり混雑しており
          しかも、到着した時間が遅かったので心配したが、幸いにも一枚の布団を使うことが
          できた。食事は二食付けたが、ともに平均的なものだった。テン場は広く、小屋のす
          ぐ近くにあり、水場とトイレにも近いところがいい。



          三俣山荘
          前回の鷲羽岳のとき以来、2度目の利用となった。この日の宿泊者は定員の半分以下
          で余裕があったが、部屋が埋まるまで人を入れるので、寝るときは少々窮屈だった。
          食事内容は前回と同様だったが、手作りの料理はとても美味しく頂けた。この山荘は
          三俣蓮華岳と鷲羽岳の鞍部に位置しており、周囲の山の眺めが抜群である。2階の食
          堂を兼ねた喫茶ルームからは槍ケ岳を眺めながら、名物のサイフォンで淹れた本格コ
          ーヒーを味わえる。



          立ち寄り温泉情報
          深山荘
          新穂高温泉ターミナルの手前、蒲田川畔にあり、下山後の定番温泉。上流方向に抜戸
          岳を望める解放感抜群の露天風呂は男女、混浴などいくつもあり、湯の花が舞う、源
          泉掛け流しの湯を楽しめる。登山初日は隣の無料駐車場に車を置きたいのだが、シー
          ズン中はいつも満車だ。
          露天風呂500円、内風呂700円。宿泊もやっている



          黒部川源流域の山歩き
          これまで薬師岳、鷲羽岳、黒部五郎岳、水晶岳といった黒部源流域の名山を巡ってき
          た。これらの山は4〜5日ほどかけて一度で登ってしまうのが効率が良くゆっくりで
          きる。しかし、以前とは違い、休みの少ないサラリーマンの筆者としては、すべて単
          発での山行となってしまった。鷲羽岳や黒部五郎岳のように山深いところでも、1泊
          で登ることはできるが、より楽にのんびりと山を楽しむには1日でも日程が長いほう
          が望ましい。ましてや薬師岳のような日帰り登山では、時間に追われながら歩かねば
          ならず、それなりの達成感はあるものの、充実感に乏しいような気がする。そして、
          この地域で未踏の領域である、雲ノ平と高天原には早く行ってみたいものである。



        <山行後記>
          まずは山頂に立てたことにホッとした思いだ。水晶岳からの眺めにもはや余計な言葉
          は不要だろう。北アルプスの圧倒的なスケールを存分に堪能することができた。また、
          この時季は気候が良く、それほどバテることなく歩けたので良かった。山頂から見え
          た雲ノ平にはいつか訪れてみたいと思った。初日に出遅れなければ、ひょっとしたら
          2日間で戻って来られたかもしれないが、1日でも長く居たいと思う、そんな素晴ら
          しさに満ちた山旅だった。


                   【2011年9月10〜11日 水晶岳敗退編  






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