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ついに水晶岳に登らねばならない。 北アルプス最深部の山だけに、これまでなかなか足が向かなかったのかもしれない。
6時30分過ぎに目が覚め、車の外に出た。駐車場は半分ほどしか埋まっておらず、夜中からそれほど変わりはないようだ。空 にはところどころ雲が見えるが、青空が広がっている。山歩きにはまずまずの天気だろう。装備を整えたあと、七倉山荘前でタ
クシー待ちをすることにした。登山口へ行くには、ここから指定タクシーでまず高瀬ダムへ行かねばならない。30分ほど待つ
あいだ、釣り人と、烏帽子小屋でキャンプをするという人がやって来たので、タクシーが来ると彼らと同乗した。駐車場からゲ
ートを越えて10分走ると高瀬ダムに到着。堤頂からのダム湖とその向こうに見える山の眺めが素晴らしい。ここからトンネル
を抜け、さらに長い吊橋を渡る。周囲には白く土砂が堆積した光景が広がっている。橋を渡ると濁沢キャンプ場がある。人の気
配はなく静かだ。先に進むと登山口にでた。ここは裏銀座縦走路の起点となっている。烏帽子小屋の建つ稜線までは、北アルプ
ス三大急登と言われるブナ立て尾根を行く。しばらくきつい登りとなることだろう。気合いを入れて8時に歩きだした。いきな
りアルミ製の階段から始まり、その後は息もつかせぬ急登の連続だ。ここブナ立て尾根には、12から0のプレートが登山道の
脇に付けられている。取り付きの12から始まり、烏帽子小屋の0まで、ペース配分を考えながら歩くにはいい目安になる。あ
まり気温は高くないが、樹林帯の急登では相変わらずバテルのが早い。しかし、道は足場が良く歩きやすい。とにかく急坂なだ
けだ。ゆっくりとしたペースでようやく7のプレートが掛けられたところまでやってきた。半分は過ぎたようだ。ここでザック
を降ろし大休憩することにした。多少、体力が回復したところで再び歩きだす。先ほどから、ちらほら見えていた右側の稜線が
はっきりとしてきた。烏帽子岳から南沢岳、不動岳に至るものか、山頂部分に雲がかかってしまっている。稜線手前まで来ると、
視界が開けて気分が良い。なにより、そろそろこの急登も終わりそうな雰囲気だから。登山口から4時間50分、やっとのこと
で烏帽子小屋に到着した。小屋はとても静かだった。小屋番に聞くと、今日は十数人の団体が入っており、いま烏帽子岳に行っ
ているという。こちらはまだ先の野口五郎小屋までが本日の予定である。30分ほど休んだあと出発した。一旦下ると、すぐに
テン場にでた。朝のタクシーで一緒だった人がテントの前で食事中だったので、軽く挨拶をして通り過ぎる。目の前には大きく
三ツ岳があり、これを越えるだけでも大変そうだ。小さなピークを幾つか越えながら、砂礫帯の稜線を進んで行く。振り返ると
烏帽子岳の尖塔が天に向かって聳えていた。その姿には登攀意欲をそそるものがある。そして右側には赤牛岳が現れた。その尾
根を南に辿ると水晶岳があるのだが、ここからはまだ見えない。ブナ立て尾根でだいぶ体力を消耗しているので、烏帽子小屋か
らのアップダウンは堪える。どこが三ツ岳の頂上か分からないが、とにかく登って行くとやがて正面にのっぺりとした野口五郎
岳の山体が現れた。眺望は360度得られる。先ほどの赤牛岳から続いて、目指す水晶岳も見える。この先、野口五郎岳へは開
放的で気持ちの良い稜線歩きとなる。景色を眺めながらのんびり2時間ほど行くと、野口五郎岳の頂上が目の前に近づいてきた。
しかし肝心の小屋が見つからず、おまけにルートからも外れてしまったようだ。とりあえず、高いところに出て周囲を歩き回っ
てみると、ほどなく斜面の下に建つ野口五郎小屋を発見した。時刻は16時50分と遅くなってしまったので小屋は少し混んで
いると思ったが、予想に反して宿泊者はなんと自分だけだった。確かにここまで来るのに登山者はほとんど見かけなかった。よ
っし、今日は独り占めだ。ゆっくり休めそうだ。
![]() ![]() ![]() 七倉温泉の駐車場でタクシーを待つ 高瀬ダムの堰堤から歩きだす 意外と明るい不動沢トンネル ![]() ![]() ![]() 不動沢の吊橋を渡ると幕場にでる 北ア3大急登 ブナ立て尾根の始まり NO.7で大休憩することにした ![]() ![]() ![]() 右側の視界がひらけた。不動岳あたり ニセ烏帽子岳 5時間20分で烏帽子小屋に到着
![]() ![]() テン場からの三ツ岳。これを越えるだけでも大変そうだ 後ろには天を突く烏帽子岳。時間があれば登ってみたい
![]() ![]() 三ツ岳を越えるとアルプスらしい眺めが広がる 野口五郎岳まで続く稜線は快適なトレイル
![]() ![]() 目指す水晶岳までは遠い 水晶岳からは読売新道で赤牛岳に至る
![]() ![]() 三ツ岳を振り返る。思ったより起伏があった 9時間20分かかってようやく辿り着いた野口五郎小屋
![]() ![]() この日の宿泊者は私1人だけ。のんびりできそうだ まずはビールでも飲んでホッとひといき
2日目の朝になった。外へ出てみると、東の空がオレンジ色に染まってきた。ちょうど雲海の下から朝日が昇ってくるところだ。
少し遅くなったが、5時25分に水晶岳に向けて出発した。一旦、稜線に上がると10分ほどで野口五郎岳に到着した。山頂は
殺風景なところで風がやや強く吹いていたが景色は最高だ。昨日は雲に隠れていた槍ケ岳をはじめ、笠ケ岳や黒部五郎岳、鷲羽
岳などの眺めが素晴らしい。端正な双耳峰の水晶岳もこちらから見るとなかなかのものだ。山頂からジグザグに下り、真砂岳の
西側を巻くと竹村新道分岐にでた。小さなアップダウンが続き、このあたりから思うように歩けなくなった。今日はあまり体調
が良くないのか、まだ歩きはじめていくらも経っていないのに疲れてしまい小休止を繰り返した。快適そうな稜線もしばらく行
くとガレ場と変わり、ますますペースが落ちてきた。ここはペンキ印を拾いながら慎重に越えて行く。ガレ場が終わるとそこは
東沢乗越だ。相変わらずのスローペースだが、眺めだけは最高で、どこを向いても素晴らしいパノラマが広がっている。ここで
も一服。小屋を出発してから早くも2時間30分が経とうとしていた。行く手には崖のうえに水晶小屋が建っているのが見える。
本来ならその水晶小屋に着いていてもおかしくない時間だった。いつもより体が重いのは明らかだ。小屋の建つ赤岳へ続くヤセ
尾根手前までやって来た。水晶岳を登頂して、さらにここまで戻って来るにはどう見ても時間が掛かり過ぎるだろう。その後の
下山でもかなり時間を要する。ここまで来て悔しいが、無理をせず撤退することに決めた。
![]() ![]() 小屋からひと登りで野口五郎岳に到着 ひっそりと佇む五郎池
![]() 秀麗な双耳峰から南北にゆるやかな稜線を広げる水晶岳。青空との一体感がピカイチ
![]() ![]() 野口五郎岳を下ると真砂岳分岐点にでる すぐそこに鷲羽岳と左奥には槍ケ岳
復路はここから竹村新道で湯俣温泉へ下る
![]() ![]() 水晶岳東面に広がるカールの眺め こちらは鷲羽岳、ワリモ岳からのルート
![]() ![]() 大天井岳、常念岳、槍ケ岳、穂高岳 ガレ場を越えると東沢乗越
時間の割に距離が稼げず、どうしようか考え始める
![]() ![]() 手前の斜面は大きく崩壊している 水晶岳から赤牛岳へと続く稜線
このヤセ尾根の先に水晶小屋が建っている
![]() ![]() 立山の下に黒部湖。奥に白馬岳を遠望 竹村新道の激下りを終え湯俣温泉に到着
高瀬ダムまでまだ2時間半歩かねばならない
野口五郎小屋 野口五郎岳の直下に建ち、周囲は荒涼とし水場がなく、また風が強く吹いている。建 物の周りを岩やドラムカンで固められた様子は、さながら要塞といったところで、決
して環境に恵まれているとは言えない小屋だ。当日は天気の良い9月の週末にも関わ らず、宿泊者は自分一人だけだった。夕食後、部屋で寛いでいると、小屋のスタッフ から一緒に飲まないかと誘われたので、お言葉に甘えることにした。ビールや焼酎、
美味しいおつまみをご馳走になり、おもしろい話も聞けて楽しかった。プチ宴会は2 時間ほど続き、いい気分になったところで眠りについた。翌日は二日酔いのせいかど
うか出発が出遅れ、また体調があまり良くなく、思ったように歩くことができなかっ
た。(言い訳か!)
竹村新道 復路は竹村新道を使って湯俣温泉まで下山することにした。はじめは湯俣温泉までず っと下りっぱなしだと思ったのだが、これが間違っていた。南真砂岳と湯俣岳で大き な登り返しが2回あり、また前半はかなり足場の悪い箇所が続いた。結局、湯俣岳ま
で2時間かかり、そこからは湯俣温泉へ一気に下っていった。時間を気にしながらの
歩きだったので、湯俣温泉に着いた時はホッとした。最後はそこから林道を2時間ち ょっとかかり高瀬ダムに戻ってきた。タクシーが終わる30分前だった。
高瀬ダム 黒部ダムに次いで日本で二番目に高く、ロックフィルダムとしては一番高いダムであ る。ここへ行くには、指定されたタクシーか東京電力の発電所見学ツアーに参加する か、または徒歩でしか行くことができない。堤頂からはエメラルドグリーンの湖面と
その向こうに素晴らしい山々の眺めが広がる。堤体そのものの見物はもちろん、秋の
紅葉などで訪れてみる価値は十分にあるところだ。 マイカーで行ける最終地点で、一軒宿の七倉山荘がある。北アルプス裏銀座登山口に
近く、登山の前後に入浴するにはうってつけ。また、ダム見物の人にもいいだろう。
湯船は小さいが、湯の花が舞い、わずかに硫黄臭がするところがいい。
入浴料500円
<山行後記> 予定通りに歩けなかったのは残念だったが、好天のもと、ブナ立て尾根とそこから野 しいひとときが過ごせた。この時季になればとても静かな山行ができそうなので、ま たいつか訪れてみたい。 |
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